ささざめブログ

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【読書】かまど・みくのしん著『本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む』の感想

2024/8/3発売の話題作。Webメディアオモコロで人気のかまどさん・みくのしんさん(かまみく)共著の『本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む』を読んだので感想・レビューを書きます。

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紹介・感想

人気WEBメディアサイト・オモコロで、爆発的なヒットを記録した人気記事『本を読んだことがない32歳が初めて「走れメロス」を読む日』がまさかの書籍化。しかも、今や大人気ホラー・サスペンス作家となってしまった雨穴さんまで作品を寄せるという、話題性だらけの一冊。

これまでの人生で読書らしい読書を全くしてこなかったみくのしんさんが、読書家かつ親友のかまどさんと一緒になって、名作たちを丁寧かつダイナミックに読み上げていくという趣旨。帯などにも書かれている通り、とにかくみくのしんさんの反応が強烈で「スゴい読書」と銘打つのに相応しい読書が楽しめました。

みくのしんさんの反応という点がもちろん一番の売りのポイントにはなってくるのですが、企画そのものも面白いんですよね。やっていることを言い換えれば「名著を一文ずつ丁寧に噛み砕く」という、ある種学校の国語の時間にやっていたのと似たようなことを、自由に、大げさに、そしてなにより楽しくやっているというところが、ただの読書を1大人気コンテンツにまで押し上げた要因であるようにも感じます。


私自身は、それなりに本は読むけれど、太宰やら芥川龍之介やらと、名だたる文豪の名著をしっかり読んできてはいないというタイプ。本作に収録された作品でも、『走れメロス』は国語の授業で読んだ記憶がありましたが、『一房の葡萄』『杜子春』は名前を聞いたことがあるというくらいで読んだことはありませんでした。

なので、みくのしんさんと一緒に初見を楽しむという感覚で読み進んでいたのですが、やはり単純に元作品が面白い。もしかすると、みくのしんさんの、(やりすぎなくらいの)感情移入や追加の情景描写のおかげで、普通に読むよりも魅力が高まっているのかもしれませんが……。

特に『杜子春』なんかは、みくのしんさんと一緒になって「(芥川)龍之介やるじゃん!」という気持ちになって、なんならかまみくの会話より本編の方にばかり目が行ってしまうほどでした(笑)

ただし、みくのしんさんの読書の仕方は「徹底的に感情移入する」というスタイルであるため、人によって合う合わないが出てくるだろうというのが容易に想像されます。が、普段読書を嗜むような人なら、まず間違いなく、その斬新な読書に笑える部分や、逆に感心出来きる部分が見つかるでしょう。


個人的に気になったのは、作品全編を通して、みくのしんさんの感想の次に続くのはかまどさんの説明or肯定or感嘆の繰り返しになっているため、やや予定調和な感じがしてくる点。かまみくだからこそという掛け合いや関係性が活かされる場面は少ないため、そこを期待して買うとやや期待外れかもしれません。

まえがきやらあとがきやらで、色々と二人の間にある友情というか愛というか……は感じられるので、そこまで含めれば満足度は高められるかも、という印象でした。

雨穴さんの書き下ろし短編『本棚』も収録

収録作最後は『変な家』で大ベストセラー作家となった雨穴さんの書き下ろし作品。しかも、実際に雨穴さんが同席した状態で、これまで通りのかまみく読書が展開されます。

収録された『本棚』については、およそ3000~5000文字程度の短編作。正直に言うと、作品的には「みくのしんのために雨穴ちゃんが書いたプレゼント本」的な仕上がりで、物足りないという感覚でした。いつものホラー・ミステリーとは異なる作風のため、あまり気負わずに読むべきかなと感じます。

私はみくのしんさんの感想といっしょに読み勧めていったのですが、個人的には先に作品単体で読んでからのほうが楽しめるかもしれないと思いました。

雨穴さんらしい、読みやすく優しい作風であるが故に、合間合間で繰り広げられる感想がやや冗長に感じられ、早く物語のほうを読みたいよと思ってしまう場面もあったのです。

この点については、書籍内で、同作のみを先に読めるリンクが紹介されているので、先に作品だけ読みたいという人はそちらにアクセスすることをオススメします。みくのしんさんと同じ読書体験ができるように、書籍の体裁を再現した画像版と、テキスト版両方用意してある優しさ。

まとめ

普段本を読まない人はみくのしんさんと一緒に名著を楽しめるし、普段本をいっぱい読む人はみくのしんさんの読書に味わったことのない経験を味わえるという作品でした。

一見誰にでもできそうで、しかしこれはみくのしんさんの唯一無二の感性と、それを見守るかまどさんの関係性がないと成立しないのだろうなと思わせられる企画です。

雨穴さん新作短編目当てで買うと、物足りない印象を受けるかもしれませんので、そこはオマケ程度で楽しむのが個人的なオススメです。

冒頭の登場人物紹介のページの、名だたる文豪の横に並ぶ雨穴さんの写真が出す「歴史の中に誰も知らぬ間に出現して日常に馴染んでいる怪異感」だけでも笑えるので、是非試し読みしてみてほしいと思います(笑)