ささざめブログ

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【感想】フェイクドキュメンタリー「Q」|『Q2:10 ヘルタースケルター - Helter Skelter』

YouTubeにて配信されている大人気ホラーモキュメンタリー、フェイクドキュメンタリー「Q」の最新作シーズン2第10話『Q2:10 ヘルタースケルター - Helter Skelter』の感想とちょっぴり考察を書きます。

本編

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紹介・感想(なるべくネタバレなし)

前作の『幽霊と話せる電話番号』からまたずいぶんと間が空いて約5ヶ月ぶり。久しぶりの新作公開となりました。とはいえ、今回も間にTXQ FICTIONの新作『魔法少女山田』が挟まっていたり、それに連動した「恐怖心展」があったりして、この界隈のファンとしては久しぶり感はないかもしれませんね。

今回のテーマは「ファウンド・フッテージ・ホラー in ベトナム」。と言った趣き。ハッキリ言って、今回もめちゃくちゃ痺れました。異国の地を舞台にしつつも、Qシリーズらしさ全開の陰湿で寒気のする映像に仕上がっています。

その物語の軸となるのは、とある日本人女性のインタビュー。かつて、亡き母が営んだベトナムの輸入雑貨店。その在庫として残されていた、木箱に入った謎の商品。台帳に記された怪しい高額取引。果たしてそこに隠された真実とは……。

というところで、ドキュメンタリーとしての体も十分に保って、説得力がたっぷりある作品です。

フェイクドキュメンタリー「Q」は何が凄いって、やっぱりその「説得力」の部分だと思うんですよね。

最初からこれが「フェイク」であると謳っているからこそ、実は本物なんじゃないかと疑いたくなるほどの真実性を追求していて、それが恐怖に繋がる。


作品のメイン部分は、先述の通り、おそらくベトナムで撮影されたと想定される、ハンディカムの映像。まさに「ファウンド・フッテージ」ですよ。

昼間に、外からの風も入ってくるような、古びた家屋の中で、外からはニワトリやら犬やらの鳴き声まで聞こえるような、見ようによってはホンワカ心温まるようなロケーションにも関わらず、中盤からは、見ているだけで鼓動が早くなる、寒気のする映像に昇華されていきます。

このファウンド・フッテージ映像が終わって、日本でのインタビューに戻ってきてからもひと展開用意されているわけですが、そこでは映像内で残った謎を一つ解きほぐしてくれます。

これがまた最悪(最高)なんだ……。「ふざけるな!」と叫びたくなること必至です(良い意味ですよ)。

というわけで、ネタバレなしでは何も言えないのですが、とにかく怖いです。オススメです。

ちょっぴり考察(ネタバレ注意)

タイトルの意味は?

今回のタイトルは「ヘルター・スケルター」。

この言葉を聴くと、某別に…な女優さんが主演した、ビビッドな映画が思い出されますが、まあ出典はそっちじゃないでしょうね(笑)

原語的には「混乱」みたいな意味のある言葉なんですが、もう一つ、同名の遊園地のアトラクションもあるらしいです。

en.wikipedia.org

ものは螺旋状の滑り台。アトラクションというよりは、ほぼ公園の遊具というレベルです。

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というわけで、映像に登場するあの家の「螺旋階段」をこのすべり台に見立てての「ヘルター・スケルター」だろうなという推測ができます。

螺旋という言葉からは、「無限」との関係性を想起してしまいますね。特にフェイクドキュメンタリーQシリーズでは、永遠の監獄であった「フィルム・インフェルノ」のあの洞窟であったり、「隠しリンク」で示された永遠に続くリンクであったりと、そういう終わりがないものがもつ恐怖というのを重視している気がします。

下から上に階段を上がり、滑り下りる。それがヘルター・スケルターの遊び方なわけですが、映像の中でカメラマンの男は2回この階段を行き来しています。その2回目のときは、Huyさんのアドバイスにより後ろ向きに下りるんですよね。

逆向きに滑り降りる螺旋の滑り台……これって、まさに「無限」の完成の示唆でもある気がしています。

謎の排出と答えの回収の応酬

今回の作品は結構語りたくなっちゃうところが多くて、「これってつまり、こういうこと……?」っていう想像が自然と導き出せるように工夫されている気がしました。

最初何か分からなかったものが、解決される気持ちよさと同時に、一気にその事実による気持ち悪さが訪れるという構図になっている気がします。

まずは大枠でいくと、「謎の商品」と「謎の家」の正体。まあ登場時点からロクでもないものであることは確定的に明らかなわけですが(アレを平然と触る西川さんが信じられません笑)、映像を見ていくうちにどうやらこれは、なにかしらの「呪物」的なものだぞというのが明らかに。

商品に至っては、映像中でもずっと、薄黒い紙が被せられていてその中身は明かされていなかったわけですが、とうとう作品ラストに、その紙をクルクルとほどいていく(ここでも「螺旋」的なイメージがリフレインしてきます。あと、この紙もなんか、異国の御札っぽかったですね)。

で、とうとうその先に隠されたものが明らかになると、べったりの謎のシミがついたリュック。


西川さん「このシミは何だ?」


言っとる場合か!!! どうかんがえても血痕だろ!!!!

もうすでに精神に異常をきたしているのか、素手でペタペタとリュックを触るクレイジーさが披露されたのでした。

というわけで、映像の中身とも照らし合わせて、どうやら西川さんの母・瑞穂さんが扱っていたそれは、どうかんがえても「呪物(それが不幸をもたらすものか、あるいは幸運をもたらすものかは不明だが)」であり、あの映像はそんな「呪物ファクトリー in ベトナム」だったことが理解できるわけです。

そう考えると、一つ一つやっていたものも、言ってしまえば「儀式」で、しかもそれはどうも邪悪なものであろうと。

あの紙に包まれた物体がすべて、件のリュックのような「血濡れの遺品」のようなものなんだとしたら、それを呪物の媒体/元として、そこに呪力が宿るようにすべてが計算されているのだろうと。

写真を立て、鏡を置きまわって、黒い灰のようなものを巻き、お経を鳴らす。それらがすべて組み合わさったときに、とんでもなく悪いことが起きて、あの家の中で心霊化学反応が起きて、最終的に出来上がるのがあの商品なんだろう、と。

カメラをずっと回しているのも、納品のための証拠としてだったわけですね。

高額の売買は一体誰が取引していたのかとか、あの家を管理しているのは誰なのかとか、Huyさんが電話していた相手は誰だったのかとか、その他もろもろ謎は残っていますが、この作品自体を楽しむ大枠の謎は、こうやって視聴者の中で自然と解決できるようにつくられているのだろうとおもいました。

過去作を想起させる要素いろいろ

すでにいくつか言及していますが、今回はいつにもまして、これまでの作品を思わせる部分があった気がしました。特に、Q1シリーズのものが多かった気がしています。

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「悪質なイタズラか?玄関先に置かれる献花の謎」のときは、献花を切った写真で巻いていたことや、振り返ったときに人影が家に見える映像が思い出されました。


途中、鏡を置きまわっていたシーンは、明らかに「鏡の家」を思い出させるモノ。映る影も、カメラマンのそれではない、別の男性の影に見えました(両手が空いて仁王立ちしていると思われる)。

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顔の潰れた写真は、嫌でもオレンジロビンソンを思い出します。

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まあ、顔が潰れた写真類はこのあと、Qシリーズに限らず頻出の演出なので、ここだけがどうっていうわけじゃないんでしょうが(笑)


普段Qシリーズを見るときは、なるべく単独で、他の回と結びつけすぎずに楽しもうと思っているのですが(そうしないと、無闇矢鱈に深読みしてしまいがちなため)、今回についてはこうやって過去作とのつながりを想起しながら楽しむのも良い気がしたのでした。

この世界にある悪意

というわけで、作中に限らず、Qシリーズ全体に共有する世界観に少し目を向けてみたいと思います。

というのも、今回はとうとう、VTCなる謎の企業(YouTubeのコメント欄によると、ベトナムに実在する企業の名前らしいですね笑)まで登場したわけですが、この世界には呪いや、シリーズでいうところの「インフェルノ」の存在を知覚していて、それを悪用していると思われる人や集団が明らかに存在していることがわかります。

普通のホラー作品って、どうしても「誰かの恨み」を元にしていることが多いと思うんですが、Qシリーズの根底にあるのは、「恨み」よりも「悪意」なんじゃないかと。

本作「ヘルター・スケルター」はまさにその「悪意」がかなり表出している作品で、呪物を使う過程でおそらくかなりの人間の命が危機にさらされているということがわかります。あの写真の家族であったり、並べられた写真に写っていた人だったりは、きっと無事ではないだろうなと思ってしまうし、あの家には今回のカメラマンのように囚われになったままの人が多数いるのではないかと。

で、そんな犠牲の先に、それで巨万の富を得ている人間が居て、瑞穂さんもその一人だったと。まあ、最終的に彼女もその呪いの影響を受けたのでは、と想像できるのですが……。

ただ少なくとも、企業体のレベルで関わっている存在がいるのが明確になってきたわけですよ。完全に、人の命を悪用して何かをなしている。こういうの好きなんですよね。「SCP財団」的な、人間の命の価値が希薄であって、別の目的が優先されることに対する怖さ。

あと、そうなってきたときに、じゃあこのチャンネルに投稿されているドキュメンタリー映像って、誰がどんな目的で作ってるんだ?というのが気になってきます。もうこれ、ずっと言ってるんですけどね(笑) お前はなんでこの映像をドキュメンタリーとして撮ってるんだと。

そういう意味では、今回のインタビューも、なぜ西川さんにインタビューすることになったのか、そこの経緯は謎なんですよね。

色々妄想が膨らむところなのでした。

まとめ

今回はファウンド・フッテージ映像がベースでしたが、やはりこの形式は怖い! 最高でした。

特にあの階段を上がるシーン。別に真っ暗でもなくて、知らない言葉が聞こえるだけで、外からはニワトリの鳴き声まで聞こえて、そんな状況であんなに身の毛がよだつのだと思うと、人間の想像力の恐ろしさを感じました。

全編を通しても、カメラマンの男性と同様に、理由もわからず儀式が完成していく様子を見せられいく気持ち悪さと、唯一の拠り所であった先輩Huyさんがいなくなったときの絶望感たるや、筆舌に尽くし難いものでしたね。

直近では、漫画シリーズまで始まって、ちょっと迷走気味では、と疑われるのもいくつか見かけましたが、ここに来てかなりの傑作を味わわされました。


ちなみに、漫画の方は現状、相当意味不明です。

あと、こっちはあんまり話題になっていない気がしますが、WEB記事形式の連載もあったりします。

www.gentosha.jp


Q2シリーズも、残り2話でしょうか?

まだしばらくかかるでしょうが、次、そして最後にどんなエピソードが来るのか、今から楽しみでたまりません。