
五条 紀夫作『殺人事件に巻き込まれて走っている場合ではないメロス』をAudible(Audio Book)で読んだので、感想・レビューを書きます。
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まえがき
Amazonのオーディオブックサービス、Audibleから、3か月99円セールのキャンペーンが届いたので、久々に加入。
最近、ラジオが聞けるようになったので、その勢いでAudibleで小説を聞いてみようかというわけで聞いてみた回です。
作品紹介(なるべくネタバレなし)
最も多くの日本人の心に残っている小説の一つ、それが、太宰治の書いた『走れメロス』だろうという主張は、きっと多くの人に共感してもらえるのではないかと思います。
そんな走れメロスを「ミステリー小説」として再解釈する、パロディ満載のミステリー小説がこの『殺人事件に巻き込まれて走っている場合ではないメロス』でした。
著者の五条紀夫先生は、直近では『町内会死者蘇生事件』『私はチクワに殺されます』などが話題によく上がっていう印象の人気作家さんですね。作品紹介からメタ✕コメディ✕ミステリーな作品に定評のある方と見受けます。で、実際に、今作もまさにそうでした。
作品の舞台は、もちろん『走れメロス』の世界。
メロスが、邪智暴虐の王デュオニスと対峙し、竹馬の友セリヌンティウスの命を賭け、走り抜いたあの3日間。もし、その3日間の間に、実はメロスが「殺人事件」に巻き込まれていたとしたら……。
根底となる『走れメロス』のストーリーラインを維持したまま、次々と巻き起こる事件。もともと、ずいぶんと困難な旅程だったのに、あのメロスがさらに大変な目にあうというわけです。
まあ正直に言えば、もうここまでの情報だけで、まずは読んでみて!と言いたいところなのですが、もう少し踏み込んでいきます。というわけで、以降プチネタバレ注意です。
メロスは推理した(合っているとは言ってない)
今回、主人公となり、探偵役となるのはもちろん「メロス」その人。
そして、ミステリー小説でお決まりの相棒役。ホームズに対するワトソン、明知小五郎に対する小林少年役となるのは、「セリヌンティウス」。……ではなく、メロスが妄想により生み出したセリヌンティウスの幻想「イマジンティウス」。
もちろん、セリヌンティウスは城で囚われの身であるわけですから、彼の力を直接借りることは出来ない。けれども、メロス自身は、ひとりきりでは到底推理なんて出来ず、なんでも物理(フィジカル)で解決しようとする脳筋(バカ)。
というわけで、文字通り心の友の手助けを借りながら、殺人事件と向き合うことになります。
作品最初の事件の舞台となるのは、メロスが帰り着いた故郷の村。時系列が工夫されていて、まずはここから物語がスタートします。
妹のイモウトアの元に駆けつけ、花婿のムコスたちと話をつけた矢先に発生する凶事。
早く式をあげ、セリヌンティウスの元に駆けつけなければならないという状況での緊張感ある推理劇が楽しめます。
まあ、ぶっちゃけて言えば、古代ギリシャという舞台的な特性もあり、トリックや事件そのものはやや突拍子もなく、ミステリファンからは苦情が出るんじゃないかとヒヤヒヤするような代物でもあるのですが、思わぬところから拳が飛んでくるような驚きは味わえますよ!
クスリと笑えるネタの数々
ここまでですでにお気づきの方もいるかもしれませんが、まず登場人物の名前からしてふざけています。
イマジンティウス、妹のイモウトア、義父のギフス、第一発見者のミタンデス、容疑者のアヤシスなどなど……。基本的に、原作に登場しない人物の名前については、名は体を表すを地で行く名前がつけられています。
まず名前のど直球具合で笑わせられますが、ストーリー自体も笑える瞬間がいっぱい。特に、原作の頃から実はその片鱗を見せていた、あまりにも「激情家」すぎるメロスの言動には、ミステリー小説を読んでるはずなのに大笑いさせられる瞬間も。
そんなわけで、基本的に「コメディ」の色が強いです。なので、原作に強い愛がある人だと受け入れられないという面はあるかもしれません。
けれども、そのコメディ要素も逆手に取った展開があったり、読者の偏見を駆使したメタ描写があったりして、一つの作品としてしっかり昇華されています。
深まる原作への愛
作中には、度々、原作からの原文ママの引用が登場します。その度に、やはりなんと美しく力強い文章なんだと感嘆させられましたね。
初めて、原文を読んだときのあの焦燥感というか、顔をしかめたくなるほど心がぎゅうと締め付けられる感覚が、このコメディ色をまとった作品の中でも、変わらず飛び出てきて、改めて作品の凄さを感じました。
さらに、本作は、古代ギリシャにおける走れメロスを取り巻く歴史的背景であったり、あるいは走れメロスが生まれたきっかけである、太宰治・檀一雄らの「熱海事件」のことだったり、今まで知らなかったような事実を知るきっかけにもなりました。
オバカなミステリー、いわゆる「バカミス」と呼ばれるジャンルなのかな、とは思いますが、一笑に付すのも早計ではないかと思います。
まとめ
タイトルと間の抜けた表紙絵に惹かれて読み(聞き)ましたが、すぐに熱中して、その日のうちに読了してしまいました。素直に面白かった!
オーディブル版のナレーションを担当された倉田哲朗さんの声も凄く聞きやすくて聞き惚れましたね。
個人的に、このかっこいい声から出される、「アヤシス」たちの間の抜けた「でやんす」ゼリフがとても好きでした(笑)
余談
最後に明かされる秘密は、かなり驚きで、正直納得できない部分もありましたが、改めて冒頭を聞き直すと、まあ確かに通る……のか……?と。
辻褄が合わないような気もしつつ、まあ、このメロスの視点だしな、と無理やり納得したのでした。
どんでん返し、という言葉を使うのはあまり好きではないのですが、こればかりは「どんでん返し」と言わざるを得ない真実でしたね(笑)
