
雨穴著『変な地図』を読んだので、感想・レビューを書きます。
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紹介と感想(なるべくネタバレなし)
今や日本トップの売れっ子作家となってしまった雨穴さん。いつだかのオモコロ杯で『VRAVよりも楽しくAVを見る方法』で優勝し、鮮烈デビューを飾ったあの頃から氏の作品を楽しんでいる身としては、ずいぶん遠い存在になってしまったな、なんて感慨深くも複雑な思いも抱いてしまいます。(私に進歩がないだけのような気もしますね)
そんな個人的な感情はさておき、2025年下旬に発売された変なシリーズ第4作。間取り図、絵、ブログ記事など、独特のギミックを駆使しながら読みほどいていくホラーミステリーシリーズですが、本作はタイトルの通り「地図」がテーマ。
物語の主人公は、「変な」シリーズにこれまで登場してきた人気キャラクター・栗原さん。彼がまだ就職活動に勤しむ大学生だった頃が描かれます。彼の祖母の死について、それまで隠されてきたある事実と、その死の際に彼女が手にしていたというとある「古地図」。そこに隠れた真相を追うというストーリーが描かれます。
これまでの「変な」シリーズは、短編が組み合わさって長編となる、というような描かれ方だったり、過去の事件をそれぞれの当事者の視点で描くパートが多く、事件そのものに探偵役は介入できない物語だったように思いますが、本作は一転して、かなりまっすぐな「推理小説」に仕上がっています。探偵役となる主人公・栗原青年が、古地図と、それにまつわる複数の事件を解決せんと、文字通り駆け回る推理活劇というわけです。
本自体の仕上がりとしては、いつも通り、とにかく読みやすい一冊になっており、極限に整えられた体裁と、丁寧にこしらえられた数々のイラストが、快適な読書体験を提供。そこに、今までの作品にはなかった青春感というべきか、疾走感というべきか、なんせそのようなものが、ページを捲る活力を与えてくれる作品に仕上がっていました。
帯とかでは付録の考察マップがどうとか、あなたはこの謎が解けるかとか、いわゆる「考察」という文脈での楽しみ方を煽っていますが、正直に言えば、そんなのは一切気にする必要がなく、ただまっすぐ本文を読んで、青年栗原と一緒にこの舞台・母娘山を駆け回る。そういう楽しみ方がオススメな一冊でした。
以下、もう少し踏み込んだ感想を書きます(真相等には触れませんが)。ネタバレ注意です!
読後感がいい!
正直、これまでの「変な」シリーズって、あまりにも読後感が悪かったというか、作者の精神状態を心配しちゃうような作品群だったんですが、本作は打って変わって、とても読後感が良かった。
悲しさはもちろん残るんですが、そこに厭世観(この世界は絶望に満ちているというような価値観)が少ないんですよね。
この読後感の良さは、付録としてついてくるQRコードを読み取ることで楽しめる動画「雨穴×栗原さん 裏話トーク」でさらに加速しますので、読了済みでそちらまで見ていないという方は是非読んでみてほしいですね。まあ若干コメディ的で、世界観を壊す、という意見もあるかもしれませんが(笑)
読後感の良さをもたらすのは、今までの作品に偏在していた厭世観の少なさもあるし、その他にも、そもそも物語の構造が「青年・栗原の成長譚」になっていることも一因でした。
未来においても、偏屈で掴みどころのない男である栗原さんが、苦悩してトラウマと向き合う姿には、意外性があって楽しいし、彼が自らの気持ちに向き合い、克服する姿には素直に胸打たれましたね。
そういう意味で、今までの作品よりもずっと他人に勧めやすいし、逆に「こういうんじゃないんだよ」と思ってしまう読者もいるかもしれない。
なんにせよ個人的には、「変な」シリーズらしさこそ減ったかもしれないけれど、本当に読みたいのはこういう作品なのかも、と思ったのでした。
まとめ
以上、雨穴さん最新作の感想でした。
作品全体の感想に終始しましたが、終盤の真相解明・回収パートで、積み重なった謎がスルスルと読み解かれていくところも爽快でよかったですね。良く出来てるなぁと感心しきりでした(笑)
殺人を懺悔する手記、妖怪の描かれた古地図、電車事故、廃村。時代が交差しながら絡み合った謎の真相は果たして。といったところで、まあ変に構えて「考察」にこだわらず、気楽に楽しむのがいいのでは。
余談
栗原さんのキャラクター、本作を読んでいると、どうしても、某オ◯コロチャンネルの仮面をつけた男に重ねてしまいますね。途中から完全に氏の声でセリフが再生されてしまって、ぶんぶんと頭を振って読まざるを得ませんでした(笑)
あと、最近こんなキャラクターに触れたよなぁと思ったんですが、こちらも大ヒット小説『成瀬は天下を取りに行く』でおなじみ、「成瀬あかり」にも通ずるところがあると思うんですよね。
まあ、栗原さんは成瀬よりも、もっと「生きるのが下手な人間」っていう感じがするんですが、こういう偏屈で物怖じしないキャラクターというのは、やはり自分とかけ離れていて魅力を感じてしまうものなのかもしれませんね。
