2024/7/25発売の書籍『フェイクドキュメンタリーQ』を紹介/レビュー。
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紹介と感想(ネタバレなし)
YouTubeを舞台に、圧倒的なクオリティで一躍フェイクドキュメンタリーホラーのブームの火付け役となったフェイクドキュメンタリー「Q」シリーズから、ついに書籍が発売されました。今回は第一作となったこの『フェイクドキュメンタリーQ』(これ、名前的に二作目以降どうするんですかね……w)を読んだので、その感想をつづります。
全体の構成としては、YouTubeで公開済みの人気作6編のノベル化+各エピソードの後日談や新たな情報を交えた話が展開されていく形。そこに二編の完全新規の話となる「キムラヒサコ~厄災」と「池澤葉子失踪事件~母の印影~」が収録されています。
それぞれの話の中で、QRコードを読み取ることで、動画や音声に直接アクセスできるという仕掛けも用意されていて、なにかとチャレンジングな一冊に仕上がっていました。
フェイクドキュメンタリー(モキュメンタリー)の書籍化としては、既に長江俊和氏の『放送禁止』シリーズなんかも存在していますが、個人的にはフェイクドキュメンタリーQシリーズらしさがしっかりと書籍として体現されつつ、新たな形での「フェイクドキュメンタリーホラー」を提示した形になったのではないかと思いました。
ホラー小説のジャンルでは、背筋氏の『近畿地方のある場所について』や阿澄思惟氏の『忌録: document X』も思い出させられたような一作で、それらが好きな人ならまず楽しめるのではないかと。
一方で、フェイクドキュメンタリーQシリーズの動画がまさしくそうであるように、ほとんどのエピソードは、新たな情報が提示されたにもかかわらず、その全貌はいまだつかみきれずといった印象で、パンチに欠けていたりモヤモヤしてしまうというところもあるかもしれません。
まあそもそも、この書籍の構造自体が難しく、「フェイクドキュメンタリーQというフィクションホラーを作っているチーム(寺内康太郎、皆口大地ら)が、その映像が出来上がった経緯を語るというフィクション」を行っている構図なわけで。読み方のスタイルによっては、かなり難解に感じてしまうかもしれません。
Qチーム主要メンバーの名前も書籍中に登場し、実際にその話の中の取材や、多くのやり取りが行われていたのだと錯覚してしまうような感覚に陥ります。
まああまり気にせず、なんだかわからんけど気持ち悪いホラー短編をいっぱい読むぞ!という気概だけで読めば十分に楽しめると思います。
どのエピソードも丁寧に文章として変換されていて、動画で味わったときと同様に、あるいは少しばかりその性質を変えながらも、じっとりと嫌な気持ちにさせてくるあの恐ろしさは健在です。
Qファンならもちろん楽しめますし、そうでない人でも、十分に楽しめる一作なのではないでしょうか。
QRコードの仕掛けについて
本書には、QRコードを読み取るという仕組みが導入されています。ゾゾゾの裏面の『マドレーヌの冒険(矢印を描く方へ)』を思い出しますね。
動画化されているエピソードの場合、まずはその本編へのリンクが貼られています。なので、なにが見れるんだろう!とワクワクしてアクセスしたら、見覚えしかない動画だった、なんてことになります。
そのほかに、新たにつくられた映像・音声などが登場します。個人的にはどれも作品のリアリティと不気味さを掻き立てるために素晴らしい役割を果たしていると思いましたが、一方ですべてを合わせても収録時間は多くなく、あまり期待しすぎるとがっかりしてしまうかもしれません。
あと、電子版で購入した人の場合は、QRコードを読み取るための工夫が必要です。私の場合は、AndroidのGoogleレンズ的な機能をホーム長押しで呼び出してQRをタップするだけで飛べましたが、機種によってスクショして飛ぶ、あるいは別の端末で読み取る、など工夫が必要になるかもしれません。
そのあたりのことが自己解決できなさそうな方は、書籍版を購入した方が安心であるかもしれません。ご注意ください。
各話の感想(微ネタバレあり)
以下は、収録されている各エピソードの感想です。核心に迫るような大きなネタバレは含んでいませんが、未読の方はご注意ください。
封印されたフェイクドキュメンタリー
書籍版でも記念すべき第一作を飾ったのはQ1:1。なるほど、文章で読むとこんな感じになるんだなぁと、動画のことを思い出しながらも、新鮮な気持ちで読み進めました。
追加エピソードはその後の追加取材で明らかになった新情報群。中には、新たに見つかった、見たら死ぬビデオの被害者と思しき男性の映像が。これもまたなかなかに気味が悪くて最高でした。
BASEMENT
シーズン2のなかでも、ひときわ人気の一作。永遠に地下に下り続けるエレベータに乗ってしまった女性をカメラに収めた作品。
動画のほうでは、ほとんどの周辺情報もなく、ただとにかくまっすぐに恐怖が表現された印象でしたが、書籍版は新たに多くの情報が開示されていきます。でも、あの動画で覚えたような疾走感も健在。どんどん下っていくエレベータと女性の恐怖・焦りが紙面越しに伝わってきます。
追加エピソードの、また別のエレベーターの話がこれまたこっわい。きもっちわっるい。良い。
SANCTUARY
これも非常に人気の高い作品。山の中で息を切らし車に乗り込む男性2人とその顛末が描かれた珠玉の一作。
ここはもう、ファン必読です。動画では「やばい新興宗教の儀式に巻き込まれた」くらいにしか思っていなかったのですが、本で追加のエピソードも提示されて、初めて、そこで何があったのかを想像することができるようになりました。
しかも最後には、現実世界側にも恐怖を伝染させてくる始末。やってくれるなぁ(笑)
ノーフィクション
シーズン2の第一話であり、個人的には1,2を争うお気に入りな一作。ひきこもりの高齢女性に密着したドキュメンタリー。
これも、元の作品の見え方がかなり変わってくる一作で、動画を楽しんだ人なら読んで損なし。追加エピソードで、失踪した姉の「岡崎裕子」について取材したかつての取材記録を楽しめます。
最後はかなり答えを提示してきます。珍しいです。いやでも、初代ディレクターの目的とかいろいろと謎なところはやっぱり……。分からないところがまた増えただけなのかもしれない……。
キムラヒサコ
新規書き下ろしのエピソード。といいつつ、こちらはかなりあっさり目なショート作品。
個人的には、やや肩透かしな感じがありました。なんとなく、直近で「イシナガキクエ」を楽しんだところだったので、それがよぎってしまったのも……(笑)
QRを読むと聞ける音声はなかなかです。
(追記)コメントで教えていただいたのですが、こちらの「キムラヒサコ」というワードは、Q2:6 隠しリンクの終盤に登場するものでした。恥ずかしながらもうすっかり忘れていました(笑)
そうなるとあの写真の意味は一体。キムラヒサコの恐ろしさが圧倒的に上昇します。
当初は肩透かし、だなんて言ってしまいましたが、隠しリンクをより楽しむための一作と言えそうです。他にもこんな感じで実はアレとつながりが……みたいなやつがあるのかも。ガチ考察勢は忙しいでしょうね……。
オレンジロビンソンの奇妙なブログ
元の動画が、ブログ画面を映し出していくだけの構造であったために、書籍にしてもほとんど同じ感覚で楽しめた一作。
これ、なにが恐ろしいって、あの気持ち悪い画像が、書籍として自分の手元にやってくることですよね。ページをめくって大きくあの顔が出てきたとき、心臓をつかまれたような感覚になりました。
追加エピソードで、この奇妙な画像に使われた家族写真の、その「家族」になにがあったのかを知ることができます。
フィルムインフェルノ
シーズン1最終作にして、Q最高峰のホラー作品として愛されているフィルムインフェルノも収録されています。これは、動画で見た方がやはり恐怖度としては段違いのような感覚があるものの、文章でも気持ち悪さと焦燥感はしっかり伝わってきます。
こちらの追加エピソードは、断片的に、この映像にまつわる様々な事象の謎を解き明かすようなピースが提示されていきます。特に良かったのは、洞窟のなかで見つけた、水につかった衣服にまつわる話と、3人の家族にまつわる話。もう、半端じゃない気持ち悪さです。最高。
ボリュームとしても、かなりたっぷりあるので、しっかり楽しめます。読んで損なしでした。
池澤葉子失踪事件
最終エピソード。こちらも新規書き下ろし。
なんだか、直近で「イシナガキクエ」やら「行方不明展」やらと、行方不明がモチーフになっているホラーを見かけていますが、これもまた気持ちの悪い話で最高でした。
ちょっと今までのQとは異なるラストが見れます。最初から最後まで、ずっと「嫌」で最高です。
特に、この話についているQRコードは、読み取るのを躊躇するくらいでした。怖いって。
まとめ
8作品のショートホラーが納められた小説として、初の書籍化としてはかなり上手くまとめ上げた一冊なのではないかと思いました。
QRコードを読み取って、新たな情報にアクセスできるという仕組みも、YouTubeでただ見ているだけよりも、より能動的にこのQの世界に「飲み込まれている」感覚が味わえて良いですね。
是非この一冊だけに限らず、今後も書籍が出るといいなぁと願っているささざめです。