ささざめブログ

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【映画】『落下の解剖学 (2023)』の感想と考察

2023年公開、ジュスティーヌ・トリエ監督作『落下の解剖学』を紹介/レビュー。

紹介/感想

フランスの山荘で起きた転落死。その妻であり作家でもあるドイツ人の女は殺人容疑で逮捕され、証言者となるのは夫婦の唯一の息子で視覚障害を持つ少年。果たしてその死は事故か、自殺か、あるいは妻による殺人だったのか。法廷で事件の真相を追求するなかで、この家族にまつわる真実が明らかになっていくミステリー作品。


名だたる賞を受賞している話題作。ミステリー作品ではあるものの、いわゆる考察系という感じで、結末は鑑賞者に委ねられるというタイプなので、スッキリ終わる結末を求めた人からの評判がすこぶる悪い一作です。

個人的には、最後の最後まで読めない展開や、良質な演技が非常に楽しめた作品でした。

もうね、ずっと母親が信用できない人物なんですよね。やっぱりコイツがやったんじゃないか、って何度も何度も思わせられる。でも、証拠は何一つなく、状況証拠と想像から生まれるものしか、彼女を追い詰めるものがない。

法廷で「音声の証拠」が出るシーンなんか特に印象的で、映画として鑑賞者に見せられる回想シーンで、もうすっかり妻が悪者に見えているのに、それでも真実はわからないとなるんですよ。むしろ、自分の想像の恐ろしさを意識させられるほどでした。

それで結局、最後に彼女の運命は、息子のダニエルに任されるわけです。裁判を経る中で、今まで知らなかった父と母の秘密も知った彼が、苦悩の上決断を下すシーンには心が揺さぶられます。


果たして、この物語の真相はなんだったのか。それは最初に言った通り、見た人の解釈次第という作品でした。

ですんで、このしたでネタバレありで個人的な結論を書いておこうと思います。閲覧注意です。

それにしても、あのスヌープが倒れるシーン、いったいどうやって撮影したんだろうか……。

わたしなりの解剖結果

結局のところ妻が直接的に夫を殺したかどうか、というのがまず問われるところですが、これは「殺していない」と思っています。そして、夫の死の真相は「自殺」が結論でしょう。

とにかく全編通して、彼女が不倫をしていたことや、口論をしている様子から、人間的におかしい部分があるのは事実なのですが、彼女自身が手を下したわけではなかったわけです。

一方で、彼女の存在が夫を追い詰めていたことは間違いない事実です。ですから間接的には彼女は「死の原因」の一つ。それも、非常に大きな原因のひとつだったわけです。


息子のダニエルは、最後の証言に臨むにあたって、非常に深く悩みました。母のことを完全に遠ざけ、導き出した結論は母を守るというような結論でした。

彼がどんな思考を辿ったかの全容を知るすべはありませんが、少なくとも最後に選ばれたのは母の存在なわけです。

確かに、母は異常な人物でした。息子とともに多くの時間を過ごしたのは父で、母との関係はあまり良くなかったと思われます。しかし、彼女の言動からは、息子への愛は確かにあるように感じました。

一方で、父の言動について、最後の喧嘩の音声や、自死という選択など、最期の彼に果たして息子への愛があったかというと、個人的には疑問が残ります。

最期の彼は、妻を貶めるということが頭にあったのではないかと思います。都合よく、妻に不利な音声や証言が揃っていく点も気になります。それに、本当に息子を愛していたなら、息子に見られるかもしれないあんな場所で死を選ぶでしょうか。事実、第1発見者は息子だったわけです(視覚障害があるから……というのは死の姿を見せても良い理由にはならないでしょう)。

あのタイミング、あの場所で死を選んだのも、妻への嫌がらせだったのでは、なんて推測もしてしまったほどです。それくらいの恨みが彼には募っていたのではないかと。


まあ少し考えすぎかもしれませんが、もしダニエルが同じように考えたんだとしたら、最期に母を守ることを選んだのも納得できるわけです。

けれども、彼女の異常性や、父を死に追い込んだという事実は残っており、すべてを許しているわけではない。だからこそ、完全な和解のようなシーンは描かれず、彼の神妙な表情が描かれたのではないかと感じました。


映画のラスト、母に寄り添うのは息子ではなく、その相棒であり愛犬のスヌープでした。

これは母に対する救いと許しの象徴なのでしょう。彼女のことを真に許してくれるのはスヌープだけなのか、あるいはダニエルもいずれ同じように、愛を持って許してくれるのか、その先は誰にもわからない。そんなエンディングの表現だった、というのが私の解釈になりました。

まとめ

久々に考察らしい考察をしてしまいました。

個人的には、実は息子がやった説を最終盤まで心の中で思っていたのですが、流石にその線はなさそうでしたね(笑)