
TXQ FICTION第三弾。テレビ東京にて、放送が始まった『魔法少女山田』の第一夜についての感想です。
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予告集
ホラードキュメンタリーの夏が来た
夏といえばホラーですよね、という感じのタイミングでやってきました。TXQ FICTION第三段。
知らない方(はこのブログに辿り着いてない気がしますが)に向けて一応説明すると、これはフィクションであることを銘打ったホラードキュメンタリーのシリーズで、テレビ東京が不定期に新作を放送しています。
ホラー映画でよくあるようなジャンプスケア表現や、かつてのホラードキュメンタリーのような、よくあるホラー番組的演出を廃していて、「ガチのドキュメンタリー番組」かのようなテイストを維持しながらも、不気味でおぞましい、まだ見ぬ恐怖を表現する番組となっています。
ネット界隈では、その難解だったり、すべてを描ききらない奥ゆかしさから、「考察」の文脈でも大いに楽しまれている一作です。逆に言うと、直接的な表現が少ないため、人を選ぶ部分が多く、「どうやって楽しめばよいのか」というのを知っていないと、楽しみ切れないのではないか、と個人的には思っています。
行方不明者捜索番組の体をとって放送された第一弾「イシナガキクエを探しています」、ある家族への謝罪番組の真実を追った第二弾「飯沼一家に謝罪します」に続いて、今回放送されるのが「魔法少女山田」と、これまたトリッキーなタイトルだったわけです。
(ちなみに、各シリーズに繋がりは今のところないので、どこから見ても楽しめると思います)
以下、今回放送された第一夜の感想とプチ考察です。
「唄うと死ぬ歌」怖すぎワロタ
わろとる場合か。
今回の主軸になったのは「唄うと死ぬ歌」。
「3回見ると死ぬ絵」「座ると死ぬ椅子」など、「◯◯すると死ぬ」という類の怪異的存在はよくありますが、今回は歌。
「唄」と「歌」を使い分ける部分の異質さ、不気味さを感じさせつつ、普通に冒頭から聞かせてきますし、なんか普通にみんな歌ってる。ウッドベースでカバーするやつまで(この動画、なんかめっちゃムカつきました)。なんだ、死なないんじゃん。
3回見ると死ぬ絵も、もう100回は見てる気がしますが、いまだにピンピンしてますからね。噂とは得てしてそのようなものです。
そんなふうにお気楽に見ていると、この歌の出どころとして上げられたラジオ放送が流れます。
いや、キモッ!! こわッ!!
朗らかな子どもたちの声で歌われる合唱と、そのベースに成人男性の声。
本来なら微笑ましいとまで思えそうな雰囲気なのに、「逃げちゃだめだよ」なんていう浅ましい押し付け的歌詞と、稚拙な叫び声にちかい歌声が生み出す不協和音、そして、途中から急激に減っていく子供たちの声。変わらず聞こえ続ける男性の声。すべてが噛み合って、もうあまりにも怖い。
ちなみに、映像の中盤で改めて歌詞が映し出されるのですが、
逃げちゃだめだよ 負けちゃだめだよ
うつむかないで 泣かないで
悔しい気持ちが きらきら光る
それは未来の 勇気のかけら
夢は待ってる 立ち止まらないで
羽を広げいま 飛び立とう
まっすぐ生きて まっすぐ進め
誇れる自分で 輝こう
それが本当の 魔法さ
浅くて薄い! 大事MANブラザーズとZARDのあの名曲を足して100で割ったかのよう!
ただ一方で、とてもこれが「唄うと死ぬ」につながるとは思えない歌詞なのも気になるポイントです。そんな歌だからこそ、逆にこれで死ぬというところのアンバランスさが奇妙で恐怖を煽ります。
バラエティ番組で現実と虚構の溝を埋める
その後は、探偵ナイトスクープ風のバラエティ番組の映像がスタート。登場人物に中途半端にモザイクをかけたりかけなかったりといった気持ちの悪さを演出しつつ、メインで映し出されるのはトムブラウンの姿。
二人はいつもの通り(なんならいつもよりちょっと控えめに)活躍するので、かなり安心できるというか、なんかこの番組普通に見たいんだけど、と思えてくる内容でした。
余談ですが、こういう、ホラーの中に本物のバラエティ番組っぽいものを挿入する試み、このシリーズに近いところだと「Aマッソの奥様ッソ」からの潮流ですが、さらに遡ると、白石晃士監督の「ノロイ」でアンガールズが出てたのが最初なんですかね?
フィクションの中にリアルが混ざることで、急に境目がわからなくなる感覚が味わえて好きです。まあテレビで見ている番組なんてそもそも虚構だろうという視点もあるわけですが……。
閑話休題。TVでしょっちゅう見かける催眠術師の十文字幻斎まで登場して、もはや笑いながら楽しく見進めていました。
コレまた余談ですが、この取材先のお家も結構変で、やけに怪しいツボが置いてあったり、やたらに絵とか皿とかが飾ってあったりして、これ見よがしにそういう怪しさを散りばめている感覚がありました。
なんてことを言ってると、実は単にそういうホームスタジオだっただけでした、なんてこともよくあるのが難しいところなんですが(笑) 多分、本編に関係ない要素だと思います。
そんな映像が終わると、もう放送残り時間もわずか。ここでまた急に、ホラードキュメンタリーの世界に引き戻されます。
催眠術をかけられた萌花さんが口ずさんでいたメロディ。それがあの「歌」だったと。 いや、普通に聴き逃しましたよ。あんな一瞬の音声で気づく貝塚さんもヤバイですね。
貝塚さんが調査を進めると、その歌の出どころがある映画であると気づき……。
その映画、創作ですか?
映画を手に入れたという人のブログでは、いくつかの興味深い事実が明かされます。
映画の主人公は、山田正一郎という元教員の中年男性。
彼はアルバイト生活の傍ら「魔法少女」のコスプレをして活動していた。とはいえ、それはパフォーマンス的なものではなく、主に自宅から配信されるニコ生や、地域公民館の学童風スペースといった、ごく限られた空間でのみ行われていた。(ささざめ注:一部映像から読み取れない部分は補完)
映画の中盤、山田氏が部屋で小さな鍵盤に向かい、何かを口ずさみながら作曲している場面がある。
不明瞭な歌詞、何度も繰り返される断片的なメロディ。このシーンを何度も再生して確認したところ、
私は確信した。それは、「唄うと死ぬ歌」の旋律そのものだった。
完成はしておらず、歌詞も不完全。だが、曲の核となる旋律と音階は、ネットで拡散されているバージョンと酷似していた。
映画の中ではまだ未完成だったという「歌」。しかしネットに拡散されたものは完成版。
つまり、本来、映画の中だけで終わるはずだった「魔法少女おじさん」の歌は、なぜかその後も作り続けられ、完成してしまったというわけです。
「映画」と表現されると、どうしてもフィクションと結びついてしまうのですが、他にもジャンルがあります。そう、ドキュメンタリー。
実際、その後映し出されるDVDのジャケ裏にも書いてあります。
教師を夢見た魔法少女のドキュメント
山田正一郎、41歳、独身、元教師。今はアルバイトに励みながら、インターネットの世界では"魔法少女(おじさん)"として活動している。
彼の夢は、週5回のネット生放送「ヤマダの魔法教室」で、子どもたちに魔法のような学びを届け、日本の教育に変革をもたらすこと。
元教師としての情熱と、魔法少女としての信念を胸に刻む、1年間の奮闘を追った記録映像。
きっと来週は、この映画の内容が映し出されることでしょう。
映画では、山田の1年間の活動が切り取られただけで、山田はその後も、もしかすると今でも活動しているのかもしれない。今週登場した相談者の貝塚さんや、ロケに登場した萌花さんは、この映画の後の期間で山田と出会い、なにかおぞましい恐怖を植え付けられたのではないかと考えられます。
それにしても、40超えた独身おじさんが本気で魔法少女を演じて、その思想を子供に……みたいな、「グロテスク」な構図は、精神的にクルものがありますね。
これもまた恐怖の一つというわけです。
まとめ
ここから毎週連続配信が行われる魔法少女山田。第一夜はトムブラウンの活躍もあってマイルド・ポップにも見せつつ(布川さんのあれは正直魔法少女怖くなくても怖いとおもったけど笑)、締めるところはきっちり締めて、布石を散りばめたという感じでしたね。
特に良かったのは、子どもの朗らかな歌声をあんな恐怖に落とし込めるという部分。明るくて押し付けがましくて、それでいて浅い。そんな曲をああやって音に乗せると、こんなにも気持ち悪くなるのか、という衝撃でした。
来週が今から楽しみですね。
ちなみに、もっとド直球で「気持ち悪い」を感じられる音楽が、フェイクドキュメンタリーQのシーズン2第6話「隠しリンク」にあるので、もっと鳥肌を立てたい方にはこちらもオススメです。