柏てん原作、hi8mugi漫画『妹に婚約者を譲れと言われました 最強の竜に気に入られてまさかの王国乗っ取り?』を紹介/レビュー。
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紹介/感想
令嬢ものの作品において、姉というものは、妹に婚約者を奪われ追放されるもの。そう相場が決まっているのだ!
……なんて冗談はさておき、今回紹介するこちらも、そんな悲しみの始まりを迎える。
失意の底に落ちた主人公は「竜の花嫁」という儀式を受けることを選択する。これは、竜が住むという火口に身を投げること。これはつまり、生贄なのだ。
あまりにも真面目であるがために、そんな選択をとるしかなかった主人公。もちろん周りは、彼女が死ぬとわかっていながら歓迎ムードで、あぁもうこいつらは後で悲惨な目に合うの確定だな、なんて思いながら、主人公が身投げするのを見ることとなる。
サブタイトルが示す通り、生贄とはならずに済んだどころか、そこにいた触れるもの全て腐らせてしまうという竜グリード(七つの大罪ベースなんだろうな、とこの名前が出た時点でわかりますね)と出会い、なんとそのまま婚姻することとなる。まさに文字通りに「竜の花嫁」となるわけだ。
人化した竜グリードは非常にイケメンでキラキラで、しかし価値観は竜そのものなわけだが、なぜだか主人公のことをかなり溺愛する。話が進むと、彼以外の竜も出てくるわけだが、彼もまた人間のそれとは全く異なる行動原理で物語を撹乱する。
物語の展開としては、そこまで特殊なものではないのだが、このような竜やドライアドのような、異なる存在の心情描写がなかなか上手くて魅力的に感じる作品だ。俗っぽい人物や、底の知れない人物も出てくるし、既刊7巻までの範囲でもグリードの内面は掴みきれないところがある。
主人となったグリードは、気まぐれに人間の国ごと手中に収めることとなる。主人公も、ただグリードに守られているだけのヒロインというわけではなく、姫として、上に立つべきものとしてノブレス・オブリージュ(高貴さに伴う義務のこと)を全うする。ただの可哀想な人間ではなく、しっかり真っ当で高潔な人物なのだ。だからこそ、応援し先が見たくなる作品であった。
物語の展開上、なかなかシリアスな状況が続き、主人公とグリードの甘々シーンなどはあまり設けられていない。いずれ、二人が何の憂いもなく互いを愛せる、そんなシーンまで描かれればよいなと思っている。