2017年公開。映画『ジーサンズ はじめての強盗』についての疑問を書く。
映画紹介
ジーサンズ はじめての強盗(以下、ジーサンズ)は、2017年に公開された、クライムコメディ映画。
老人3人組が幸せを取り戻すために、銀行強盗を行うという大博打に出る話。無害な老人3人だからこそ巻き起こるトラブルや、ほっこりとする瞬間で笑えるし、老いに対する悲哀と、老いというハンデがありながらも強く生きるキャラクターたちに元気をもらえる映画だ。
主演3人をモーガン・フリーマン、マイケル・ケイン、アラン・アーキンという超豪華なメンツで揃えている上に、バック・トゥ・ザ・フューチャーでドクを演じたクリストファー・ロイドなんかも出演している、出演陣に恵まれた作品となっている。
1979年公開の同名映画のリメイク作品でもあるが、79年版の邦題は『お達者コメディ/シルバー・ギャング』であった。2017年版公開時は新たに邦題がつけ直されたというわけだが……。
邦題の謎
ここからが本題だ。この邦題はハッキリ言って、とにかくダサい。 #クソダサ邦題 の権化のようなものだ。元々ついていた邦題のシルバーギャング、のほうがカッコイイしそれらしい。というかそもそも『ゴーイング・イン・スタイル』でいいじゃないか、と私なんかは思ってしまうのだが、まあこのあたりは実際のビジネスの世界の話なのであまり勝手なことはいえない。
私がここで、問題にしたいのは、このダサさではなく、このタイトルの持つ意味についてだ。
本作のWikipediaを読むと、以下のようなことが書いてある。
原題は「流行にのる」といった意味で、本作の場合は「模倣犯」の意味も合わせ持つ。
コレを読んだ私は、「え、ほんとうにそうか?」という感情を抱いた。なんだか、オカシイ気がしたのだ。
そもそも、私の感覚として、"Going in Style"というタイトルからは、白と青の爽やかなビジュアルも相まってスマートでポジティブな印象を受けていた。
なのに「流行にのる」「模倣犯」となると、なんだかカッコよさがかなり失われてしまう気がしたのだ。
辞書的な意味は?
Going in styleという言葉を調べても、映画の情報がヒットするばかりで、それ自体の言葉というのは辞書ではヒットしなさそうだった。なので、分解する必要がありそうだ。
GoingはまあGoの現在分詞でしかないのでいいとして、問題はin styleだ。日本語のネット辞書で一番多くの情報がヒットしたのは英辞郎だった。
in style の意味・使い方・読み方
in style
1.スタイルにおいて、スタイル的に、スタイルの面で
2.〔ファッションなどが〕流行して
3.〔行動などが〕立派に、堂々と
4.〔歓迎・祝い事などが〕豪華に、華々しく、盛大に
・The emperor was welcomed in style as his carriage entered the city. : 馬車が町に入ると皇帝は盛大な歓迎を受けた。
5.〔旅行・食事などが〕豪勢に
確かに、2の意味では「流行」というイメージがありそうだ。used to be in style a long time ago(かなり昔に流行していた)というような使い方だと、マッチする意味だ。しかし、それ以外の意味も多数ある。文脈に寄って意味を判断しなければいけないのだ。
このページの検索結果一覧というところでも、finish in style(見事な形で終える)とかlive in style(豪勢な暮らしをする)のように、3の意味だったり4の意味だったりする用例が沢山見受けられる。なぜWikipediaでは流行に乗ると言い切っているのか。そして、模倣犯という意味合いはどこから登場したのだろうか。
少なくとも、in styleから模倣犯という意味合いを見出すような文献は、私の方では見受けられなかった。ネット検索でヒットする多くは、上記のWikipediaを引用してそう思い込んでいるだけのように見える。もしかすると、映画公開時のパンフレットにでも書いてあったのだろうか?
ちなみに、日本の辞書だけを観ても情報不足なため、念のため英語の辞書も参考にしよう。
in style
idiom
1. : popular or fashionable
2. : in a way that is impressive or admired because it shows talent, good taste, etc. : in a stylish way
When she travels she likes to do it in style.
He finished the tournament in style by winning his last match very easily.
自分なりに翻訳すると、1は「人気のある、またはファッショナブル」、2は「才能や良い雰囲気を持っているために、感嘆や称賛する意味合いで使う、スタイリッシュなやり方」などの意味であると解釈する。やはり、ポジティブな意味合いで語られているように見える。模倣犯という訳はどこから来たのか、ますます不思議に感じる。
一応、参考になるかどうか不明だが、生成AI(Chat GPT)にも聞いてみる。
プロンプト:Going in Styleというタイトルの映画があります。英語ネイティブはこのタイトルをどのように解釈するのか教えてください。流行に乗る、あるいは模倣犯、という意味合いがあるという人がいるのですが、英語ネイティブが実際にそのように捉える可能性があるかどうか教えてほしいです。
「Going in Style」というタイトルの映画は、直訳すると「スタイルで行く」となります。ただし、このような表現は通常、特定の文脈において意味を持ちます。例えば、「Let's go in style」と言えば、「スタイリッシュに行こう」とか「おしゃれに行こう」といった感じに解釈されます。
ただし、映画や本のタイトルはしばしば直訳とは異なる意味を持つことがあります。したがって、この映画のタイトルが実際にどのような意味合いで使用されているかは、映画の内容や背景に依存します。タイトルだけでは確定的な解釈が難しい場合があります。
一般的に、「Going in Style」が「流行に乗る」や「模倣犯」といった意味を持つことはありません。映画の場合、通常は物語のテーマ性やキャラクターの特徴に結びついた表現が使われます。
GPT的なスタンスとしては、映画の内容は背景に依存するため判断しかねるものの、基本的には「流行に乗る」や「模倣犯」といった意味合いはとらないだろうというスタンスのようです。
まあ、最終的には英語ネイティブに実際に聞かない限りわからないことだし、先述の通り、映画のパンフレットやインタビュー記事などでそのようなことが書かれてあったのかもしれないが、現時点では私の感覚では嘘ではないかと感じてしまっている。
Wikipediaの更新履歴
実際、このWikipediaはいつ、誰が更新したのか。気になったので調べてみた。Tavernpostというユーザーが、2022年5月29日に該当の文言を追加していることがわかった。
しかしながら、これには出典もなにも追加されていない。もちろん、ただ単にまっすぐな翻訳なんであれば不要だったかもしれないが、今回のような微妙な翻訳であれば、出典が欲しかったところだ。
今更こんなことを気にする人はいないのかもしれないが、このWikipediaの記載を引用しているブログなどが目についたので、書き起こしておきたいとおもった次第だ。