ささざめブログ

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【読書】どんでん返しのオンパレード!『掲載禁止 撮影現場』(著:長江俊和)

 2023年11月発売。長江俊和著作『掲載禁止 撮影現場』の感想を書く。

(購入はこちらから)

紹介

 放送禁止という、ホラードキュメンタリー(モキュメンタリー)で一大ブームを引き起こした長江俊和氏による最新著作が『掲載禁止 撮影現場』だ。

 長編『出版禁止』シリーズも好評で、この掲載禁止は、そんな氏による短編集。今回が第二弾ということだ。

 放送禁止で示された、作品の中にわずかに与えられた違和感とそれを解きほぐす快感というのが、本作でも変わらず描かれている。宣伝文句や、作家の真梨幸子氏の解説にも表される通り、とにかく衝撃のどんでん返しの連続だ。

 また、とにかく狂気の表現が秀逸で、なるほど!という快感と同時に、ブワッと身の毛がよだつような気持ち悪さを味わされる作品が数多くある。

 謎を解き明かしてやるぞ、騙されないぞという気持ちで読み進めていくと、一部の作品では、「こういうことか?」と思ったとおりに話が運ぶこともあるのだが、それを上回るような狂気を見せつけられてしまう。まさに長江俊和節が炸裂しているという感覚だ。

 全8作の謎と狂気の短編集。放送禁止が好きな人で、まだ書籍の方には手を出していないという人は、このような短編集から入ってみても良いのではないだろうか。

 

 余談だが、現在(2023年11月時点)、アマゾンのKindle Unlimitedで、長江俊和の書籍第一作『出版禁止』が読めるため、会員の方は是非読んでみて欲しい。そして、脳を揺さぶられて欲しい。

 

 以下は、短編各話の感想を綴る。ネタバレ注意!

各話感想

例の支店

 以下の内容は霊の存在を実証するものである――なんて大仰な書き出しで始まる一作。そして、実際にその通りの結末を迎える。まさに本書の一本目を飾るにふさわしい内容で、ぐるんぐるんと目まぐるしく変わる状況に笑えてくるほど。

 そして最後に綺麗に落とされて、あれ?ほんとうに?と思って頭から読むと、まさしく、嘘偽りのない文章が書かれている。上手い!

 

ルレの風に吹かれて

 長江俊和の書く、狂った愛は癖になる。出版禁止を読んだときのような気持ち悪さを感じる内容だが、それと同時に納得感も感じられる一本。

 なんとなく、こういう内容なのかな?と想像した通りに結末が訪れたのだが、だとすると彼がこの手記を書いた目的は。あの名前の逆さ読みに隠されたメッセージの意味は一体なんなのか、と思うと鳥肌が立つ思いだった。

 

哲学的ゾンビの殺人

 哲学的ゾンビだから殺害したんだ、と自白する殺人事件の容疑者と、それを取り調べる刑事二人の話。

 個人的には難開作。これだけは、どういうことが起きたのか、判断しかねる作品だった。時系列のトリック、登場人物の読めない心情と行動原理。

 全くの余談だが、2017年に「哲学的ゾンビ」を信じて5人を殺傷した事件が実在するが、その被告は2023年10月に心神喪失による無罪判決が確定している。

 

この閉塞感漂う世界で起きた

 底辺の男が、ある家に強盗に入る話。上級国民という言葉がまん延した頃に書かれた作品だと思われる。

 もう、とにかく虫酸が走るというタイプの作品だ。なんとなく、そういう結末を迎えるんだろうと思ったところを、更に上回る邪悪さを見せつけられた。知りもしない人間の異常な好意を受け取ってはいけない。

 

イップスの殺し屋

 面白い。これは、他の作品と違って楽しさを感じる一作だ。イップスで殺せなくなった殺し屋という設定部分がまず面白いのだが、そこから「誰が殺し屋なのか」「殺人犯は誰なのか」、そして「最後はどうなるのか」と、気になるものが次から次に出てきて楽しめる。

 

撮影現場

 表題作。映画撮影が舞台となっているだけに、放送禁止の雰囲気も感じさせられる作品なのだが、とにかく緊張感がたまらない。読んでいるだけなのに鼓動が早まるほどだ。

 正直、トリックとしては鉄板レベルなものなのだが、それでも最後には驚かされてしまった。何故気づかなかったんだろうかと不思議なくらいだ。やられた!と思った。

 

リヨンとリヲン

 これも、凄まじさを感じる作品だ。双子の村という不気味で異常な設定から繰り出される狂気が恐ろしい。狂気の源は、村に隠された真実は、と探っていった先に待っている結末は、思考が停止するほどだった。

 

カガヤワタルの恋人

 描き下ろしの一本。謎のストーカー被害により愛する女性を二人も失った男の話。

 これも上手い。二転三転する状況に、主人公と同様に混乱させられるし、隠された事実が明らかになったときには「え? 本当に?」と疑いたくなるほどだ。(正直、ちょっとずるい!とも思うほどだがw)

 

 以上、8作品の感想だ。真梨幸子の解説も合わせて、堪能した一冊だった。