ささざめブログ

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【漫画】就職先は人外専門ホテル『神客万来!』(全6巻)の感想

ねむようこ著『神客万来!』を紹介/レビュー。

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紹介/感想

「お客様は神様です」なんてよく言うけれど、就職先がほんとに文字通り「神様」がお客様でした……。

そんな感じの1話で幕を開ける、人外専門ホテル・ツバメ屋でのあわただしい日常と、主人公・みちると周囲の人(?)々との淡く切ない人間模様を描いた作品。少女漫画的な優しいタッチなのもあって、ジャンルとしてはラブコメになるのかな?

第1話のお客様は「神様」だったため、なるほど色々な神様がくるのだな、と思ったら2話目では化け狸、3話目ではドラゴンが登場するなど、お客様は本当に千差万別。「普通の人」以外ならなんでもやってくるホテルが舞台になっていて、作品としても非常に自由な発想で書かれている。

中には、桃太郎や浦島太郎、白雪姫にヘンゼルとグレーテルの魔女など、物語の登場人物なんかも登場する。この自由さは、私の愛読書『鬼灯の冷徹』を自然と思い出さされるのだが、『神客万来!』では時系列まで自由なので、「玉手箱を開ける前の浦島太郎」なんてのが登場したりするのが非常に斬新だった。


そんな、不思議なホテルのお客様のもてなしと並行して描かれるのが、主人公・みちる、みちるをツバメ屋に誘い入れた跡取り息子・瑞希、そしてみちるに影を奪われた鬼の3人の複雑な関係性。

それぞれの事情や心情が絡み合い、一筋縄ではいかない状況で、「いったいどうなっていっちゃうの!」と心配しながら読み進める楽しさがあった。


つい先日、2024/1/16をもって最終巻である6巻が発売され、どうどうの完結となった本作。

個人的には、まだまだいろんな不思議なお客さんをもてなすところが見たかったところだった。だが、みちるたちの物語としてはきっちりケリがつくラストになっているため、読後感は悪くない。いや、ちょっとビターなラストなので心の準備は必要かもしれないが。

個人的に好きだった話

第8話:本当の呪い

眠り姫のお話。眠りの呪いをかけられ、100年間目覚めないはずが呪いの途中で目覚めてしまい、また眠ってしまうのにその前に恋に落ちてしまったという話。

設定がめちゃくちゃ上手く、非常に甘く切ない恋物語。出来るだけ眠らないようにと、起こそうとするみんなの努力の楽しさも、物語が重くなりすぎなくて心地よい。

完結してから読み返すと、なんだかこの作品そのものの行く先を示しているようにも見える一作。

第23話:玉手箱

先述の通り、まだ玉手箱を開ける前の浦島太郎が登場する話。

コメディ要素の強い作品だが、この作品の自由さを物語っているようなエピソードなので、お気に入りの一つ。ちょっと狂気と女の怖さを感じる乙姫が良い。

第24話:空とぶ魚

連続しているが、猫好きなので、この話は外せなかった。長靴をはいた猫の登場。猫カワイイです。

第36話:おかしな注文

ヘンゼルとグレーテルの魔女(?)の登場。ババアがカワイイし、漫画的にポップな表現が多くて各コマ面白い。

不思議空間のこのホテルのあり方にも言及があったり、世界観を把握するのには重要な回ではないかと個人的に思っている。

まとめ

終わってしまったのが非常にもったいないと感じるところだが、全6巻とあっさりおわるので、最期がちょっとビターなところが耐えられる人なら、オススメしやすい作品ともいえる。

不思議で自由な発想の物語が楽しみたい人にはぜひ読んでみてほしい一作だ。


ちょっぴり不満だったこと(ラストシーンネタバレ注意) 理想を言えば、ラストは鬼君が旅から帰ってきて、「みちるを食べない」という選択肢を見つけて帰ってきてくれたらもっとよかったのに、と思ってしまった。
「影はお前にやるよ」なんて声をかけて、また新たな旅に出る、なんてラストを妄想した。