ニコ・ニコルソン著『アルキメデスのお風呂』を紹介/レビュー。
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紹介/感想
唐揚げ×素粒子×ラブコメ。いやどういう組み合わせ!とツッコミたくなるような題材の作品。
ぽっちゃりで自己肯定感が激烈に低く卑屈さがありつつも、確かな料理スキルを持ち絶品唐揚げを作れるという主人公陽子(通称唐揚げさん)と、素粒子物理学の研究者(通称王子)との関係性を描く物語。
舞台はアルキメデス陽子加速器センター(A-PARC)という研究所(監修の大強度陽子加速器施設J-PARCがモチーフの架空施設?)となっており、普段漫画では描かれない空間である点はなかなかユニークだ。
そして、主人公が恋する相手となる王子は、まさしく「研究者」な人物設定。人の感情なんてお構いなしに思いついたことをズバッと口にする。そんな彼の言動が、主人公の命を救うことになる第一話から物語は始まっていく。
全体的に、ややストレスのかかる展開が続くため、1~3巻を読んでいる間は、主人公にも王子にも、その他の人にもいやもっとなんとかならなかったの!と怒り出したくなる場面が多い。特に、とある子供と主人公の父親については、私は許していないぞ!と最後まで根に持ったほどだった。
そんな展開はあるものの、最終的には、漫画のタイトルにもなっている「アルキメデスのお風呂」の意味を回収し、「エウレーカ!」に至る。なるほど、この人がこんなふうにエウレーカする物語なのか、と、最後の展開にはなかなか驚きを感じさせられた次第だ。
いや、それにしたってちょっと都合が良くないかい?とは思うのだが、まああんまり言うのは野暮だろう。
そんなことよりも、素粒子研究というジャンルを、僅かながらだが扱い、しかも単に物理学に特化した本ではなく、料理とラブコメを融合させた物語にしているというところに注目したい。
基礎研究という、科学からは縁遠い人にとっては「何の役に立つの?」と思われてしまいがちな分野を、上手く切り取って漫画の舞台とした作品、他にあるのだろうか?
一体、どんな会議を経てこの物語を出版することに決めたんだ!と不思議で仕方ない。それくらい稀有な漫画ではないかと思う。
科学漫画という意味では、言及がかなり足りないため、そういう物語を求めるとおそらくがっかりしてしまうと思うが、ちょっとそういう知的な舞台に憧れがあるけれどもとりあえず漫画としては普通の漫画が読みたいのよ、なんてわがままな読者にはぴったりなのではないだろうか。
全4巻。先述の通り、途中まではぐぬぬ!と歯がゆい思いをする場面もあるが、最後にはスッキリ完結してくれるため、是非途中でやめずに読み切ってほしい作品だ。
(余談)
王子の同僚研究者たちと食堂の小柴さんが可愛いので、もっと登場させてくれてもいいのよ、と思いながら読んでいた。