ささざめブログ

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【漫画】劣悪な異世界食事情を改善!『ハズレポーションが醤油だったので料理することにしました』(既刊9巻)の感想

 富士とまと原作、リスノ漫画『ハズレポーションが醤油だったので料理することにしました』を紹介/レビュー。

紹介/感想

 異世界グルメ・料理漫画の分野は、群雄割拠。様々な作品が乱立しているのだが、本作はそんななかでも設定の巧みさと、キャラクターの温かみを感じさせられる一作だ。

 主人公は、なんだか悲しい過去をもつ30代女性。現代で旦那にモラハラを受け、精神的に深い傷を負っている彼女が、異世界でたくましく生きていく物語になっている。この時点で設定的になかなか特殊さを感じさせられるが、これは序の口だった。

 タイトルが示す通り、本作の一番の肝は「ハズレポーション」の存在にある。ダンジョンの中で出てくるスライム(Gのようなビジュアルになっているらしい)を倒すと、回復できる「当たり」のポーションと、回復は出来ないしとても飲めたものじゃない「ハズレ」のポーションがランダムでドロップするのだという。

 主人公はそのハズレポーションが、醤油、酢、みりんなど、さまざまな現代調味料であることに気づき、それを料理に活かすこととなる。そして、このことはこの異世界のなかで(少なくとも現時点では)彼女とその仲間たちしか知らない事実なのだ。

 このハズレポーション、更にはハズレ魔石やらモンスターの肉やら、当たりのポーションなんかも、なんでもかんでも料理に使えることに気づく上に、それらを使った料理が様々な特殊効果を持たらすことにも気づいたあたりから、どうやらこの主人公の存在はこの世界に大きな変化をもたらす存在であろうことがわかってくる。読んでいるほうとしても、彼女が世間に良い影響もたらして、人々に幸せをもたらす瞬間が楽しみになってくる。

 

 物語自体はややスローペースで、のんびりとした印象がある。それを支えるのは優しく温かみのあるキャラクター達。とくに主人公と共に暮す子供たち、主人公に惚れている若いエルフ、この3人はとにかく可愛い。既刊後半に出てくるお姫様も可愛い。武器屋のドワーフ(?)も可愛い。もう、可愛い奴らがいっぱいである。

 主人公が、その出自も相まってやや卑屈なのが気になるときもあるのだが、温かい周りの雰囲気にほだされて、早く幸せになってほしいと願うばかりだ。

 

 漫画を読み終わったあとは、キッチンから泡だて器を取り出して、「泡だて器、オープン!」と叫んでみたくなる一作だ。