ささざめブログ

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【漫画】笑いと涙のアパート生活『コタローは1人暮らし』(全10巻)の感想

津村マミ著『コタローは1人暮らし』を紹介/レビュー。

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紹介/感想

4歳・幼稚園児の少年コタローが、2階建ての古いアパートで一人暮らしを行うハートフル(シリアス)コメディ漫画。大ヒットを収め、関ジャニ∞横山裕が主演を務めたTVドラマや、Netflixアニメ版の制作なども行われた作品。

2023年9月に、最終巻となる10巻が発売され、堂々の完結にいたったようだ。

かくいう私も、第二巻か第三巻が発売されたころ、パートナーが買っていた単行本を読み、なんて凄い作品なんだ!と感嘆していた。そして、遅ればせながら今日、完結巻を読むことが出来たのだ。


第一巻の売り文句が「笑って泣ける」となっているのだが、その通り、笑える場面もあれば、あまりにも辛く切なすぎるエピソードもあり、そして最後には感動でもう前が見えなくなるくらい泣ける作品だった。大名作である。

あまりにもパワーがあるので、一時は読むのをためらうようなこともあった。最終巻の作者コメントでも「キャラクターたちの辛い複雑な気持ちにひっぱられてしんどくなる時もあった」という旨のコメントが残されているほどだ。
特に、ネグレクト・DVの描写は、コタローの視点というフィルターを通すものの、どうしても切り離せないため、そのような描写に耐えられないような人にはオススメできない。

しかし、最終巻ラストまで読むと、しっかりと納得のいくところまで描かれるため、あぁ最後まで読んでよかったなと深くうなづかせられる一作だった。

※以下の感想はネタバレを含むためご注意ください。

コタローというキャラ設定が唯一無二すぎる

仏頂面で、4歳とは思えないほど達観した風な主人公・コタロー。本作の一番の魅力はやはり彼のキャラクター性にあるだろう。

「子供とは思えないことをズバズバ言う」というようなキャラクターは、えてして、「大人が言いたいことを子供にいわせたいだけ」という風に感じてしまうことがあるのだが、コタローにそれを感じることは殆どなかった。

もちろん、作者の津村マミ先生や、他にもいろいろな大人の努力があって生まれているキャラクターではあるのだろうが、そう感じさせない面がある。物語に没入している間、彼から出てくる言葉は、コタローという「悲しい過去を持ち、大人びているけれど、中身はきちんと子供で大人がちゃんと見ていてあげなければいけない存在」が紡いでいるものに感じられるようになっている。

嵐を呼ぶ5歳児・クレヨンしんちゃんたちより1つ年下とは、全く想像もできない彼だが、なぜか、しんちゃんたちみたいな元気でおバカな子たちとも仲良くなれるだろうな、なんて想像できてしまう魅力的なキャラクター、それがコタローなのである。

人の生き方を照らし出す教科書的一作

この作品は、生きていく上での、教科書的な側面ももつ作品だ。

コタローの、子供とは思えぬ言動は、ときに様々な大人たちの目を覚まさせたり、荒んだその心を癒したりする。心優しいコタローは、どんな人にも真っすぐにぶつかり、とってつけたような正論ではなく、彼なりの言葉で向き合ってくれる。

読んでいる自分も、コタローの言動にはハッとさせられたり、感動させられたりする場面が多々あった。


また本作は、大人たちの糧となるだけではなく、子供を守る存在としての大人も、適切に描かれているところがさらに素晴らしいと感じる。

アパートの隣人であり、コタローの仮の保護者として最も大きな役割を果たす狩野進や、個性的なアパート住人の面々を筆頭に、コタローの周りには様々な大人が登場する。

是枝裕和監督の『誰も知らない』では、子供たちだけで暮らす悲惨な生活を、色々な大人たちが登場するにも関わらず、文字通り「誰も知らない」まま悲惨な結末を迎えてしまうわけだが、本作ではそうならない。

多くの人が真剣にコタローのことを考え、悩み、積極的に声をかけたり、優しく見守ったり、ときには保護者の責任として叱責したりするのだ。そんな姿は、大人としての責任・子供とのかかわり方というのを考えさせられるものだ。

狩野が、コタローの前ではカッコつけたい、なんて言ったエピソードでは涙が滲んだ。泣かせやがって。

まとめ

もう会えぬ母や、物語全体としては悪役的に描かれた父との関係も、最終巻で納得のいく結末が描かれる本作。ただ誰かが悪いとかいう話ではなく、色々な人間の「弱さ」を、毎回的確にあぶり出した社会的に意義のある漫画だったように思う。

途中まで読んでいたときには「コタローになんでこんなひどい仕打ちを!」とか、「もうやめて!優しくしてあげて!」なんて言葉が飛び出すくらい辛いときもあったが、終わってみれば、今はただただコタローをぎゅっと抱きしめてあげたい。そう思える作品だ。

最終巻はもう、涙なくしては読めない。私は頭が痛くなるほど泣いてしまった。

現代を生きる大人には、ぜひ一度読んでもらいたい一冊である。


余談①:基本的にトレードマークのGOD Tシャツを着ているコタローだけど、定期的に不思議な恰好をするのが楽しくて面白かった。
たまに、「そのお仕事どういう経緯でやってるの???」とクエスチョンマークが頭に浮かびまくるときがあるw

余談②:トノサマンというキャラクターを愛するコタローだが、トノサマンと言えば個人的には『逆転裁判』シリーズを思い出す。逆裁の真宵ちゃんとコタローが二人でTVに向かってトノサマンを応援している風景が浮かんで微笑ましいなぁと思うので、だれかそういうファンアートを書いてほしい。