ささざめブログ

さめざめと語ります。日記、エッセイ、短編、感想、その他。

【映画】被害規模デカくね!?AIの暴走を止める国産SFサスペンス『AI崩壊 (2020)』

 ChatGPTをはじめとしたジェネレーティブAIの登場以降、私たちの生活の中でもかなり身近に感じられるようになったAI。古来から、そんな超技術を扱った映画は数多く存在する。かなり手垢のついたジャンルではあるものの、未来が近づくにつれて、本当に起こるかもしれない映像に近づいても来ているこのジャンル。それ扱った日本映画、それがAI崩壊だ。

 公開当時は割とそのタイトルやビジュアルから批判の声も聴いたような気がするが、今日改めて見てみると、そんなに悪い映画ではないのではないかと思えた。

 主演は大沢たかお。逃亡劇が光る。やはりかっこいい。子供のころには彼のかっこよさというのはよくわからなかったが、大人になるとわかる。不快感がないし、自然なかっこよさなのだ。

 周りを飾る俳優陣も、有名な方ばかり。かなりこの作品に力を入れているであろうことが分かる。(ここまでそろえる必要があったかというのは疑問だが)

 

 以下あらすじ。

2030年。人々の生活を支える医療AI「のぞみ」の開発者である桐生浩介(大沢たかお)は、その功績が認められ娘と共に久々に日本に帰国する。英雄のような扱いを受ける桐生だったが、突如のぞみが暴走を開始――人間の生きる価値を合理的に選別し、殺戮を始める。警察庁の天才捜査官・桜庭(岩田剛典)は、AIを暴走させたテロリストを開発者である桐生と断定。日本中に張り巡らされたAI監視網で、逃亡者・桐生を追い詰める。桐生が開発したAIを管理していたのは、桐生の亡き妻でありAI共同開発者の望(松嶋菜々子)の弟、西村(賀来賢人)。事件の鍵を握る西村も奔走する一方で、所轄のベテラン刑事・合田(三浦友和)と捜査一課の新米刑事・奥瀬(広瀬アリス)は足を使った捜査で桐生に迫る。日本中がパニックに陥る中、桐生の決死の逃亡の果てに待っているものとは?一体、なぜAIは暴走したのか?止まらないAI社会の崩壊は、衝撃の結末へ――。

引用元:AI崩壊 - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ・動画配信 | Filmarks映画

 

 以下は感想のため、微ネタバレ注意。

 

 あらすじでは、「衝撃の結末へ」なんて言っているが、はっきり言ってストーリー的にはかなり予定調和感がある。映画を見慣れているような人にはかなりありきたりに感じてしまうだろう。それでも最後まできっちり見続けることができる内容になっていたので、ひとまず個人的には満足だ。

 

 大前提のAI崩壊という設定だが、本来、医療用AIであったはずのAIのぞみが、なぜかインフラに深く入り込んでいたために、日本国自体が大ダメージを受けているような描写が目立つ。病院のシステムは停止して患者がバタバタと死ぬ。ペースメーカーをつけている総理大臣が死ぬ。カーナビのシステムは乗っ取られ、さらには停電まで起きるなど、インフラから含めて大々的に破壊されていく。いや、あまりにも被害規模が大きすぎる。そこまでの被害が出ているのに、施設やAI機器自体の強制破壊も行われない。一応映画内でも軽く説明はあるものの、その被害の大きさと対処のあたりはあまり納得感はない。

 この、異常にでかい被害というのはハッキリ言って壮大なフィクションである。もちろん、ある特定のAIにすべての電子機器が直結され、AI側からすべてコントロールできるようなシステムを構築していったということが現実に起これば、あり得る話なのかもしれないが、今から10年以内にここまでの惨状が起こるほどAIが生活に結び付くというのはかなり考えにくい。

 それに、ペースメーカーのような、堅牢性が非常に高く、交換が難しいような機器に集中サーバー管理タイプのAIを活用するというのもおかしな話だ。もしサーバーが落ちたら、ネットワーク接続ができない環境だったらどうするのか?

 このように、サイバー的な描写については、結構頑張っているような箇所もあるものの、やはりファンタジーのレベルである。まあ映画として面白くするためには仕方ない点だし、過去の名作たちも、いやいやそれはありえないよという設定が沢山出てきているので、あまりつっついても仕方のないところだろうが、日本で描写されているだけに、日本人から見ると気になってしまうところだ。

 

 ただ、色々いったものの、AIというものが以前より身近に感じられるようになった今現在。案外本当にこういう恐怖というのはあるのかもしれないなと感じるのも事実だ。AIの暴走というテーマ自体は、今まではフィクションのなかの話だけの問題だったのだが、今後は現実で本当に起きないか?と考えるフェーズに入っているのかもしれない。

 国連の会合で、AIに「人間に反抗する?」なんて聞いてるのがつい先日あったが、こんなのまさに映画の中のワンシーンのようだ。(今時点のAIにそんなことを聞いても意味をなさないが)

www.bbc.com

 

 最初こそ大きな騒動が起こるものの、大沢たかおの逃走劇がメインになってからは、AIのぞみの暴走というよりは、警察側のAIであるヒャクメの出番となる。ネーミングからして創作すぎるのは否めないが、とりあえず優秀なAIのようだ。

 町中にあるありとあらゆるカメラの映像を無断で入手して、瞬間的に犯罪を検知し通報する。プライバシーもへったくれもないという描写だ。これも接続先の危機的にありえないだろ、という話なのだが、まあ細かいことはいいっこなしである。ちょっと面白いのは、半端なく情報網が出来上がっていて、一瞬で情報が洩れているのに、全然捕まらない大沢たかおだ。移住先で走る趣味を持っていたというところが伏線で効いているのだろうが、それにしても捕まらなさすぎである。

 終盤、ある人物の死のシーンはチープでありながら、やや感動した。ちょっと怪しい雰囲気がある人物だっただけに、あっさり退場するため、衝撃がややあった。というか警察さん!やばいですよそれ!となる。AIヒャクメさんが悪いのだろうが。

 

 大沢たかおは様々な苦難を娘を助けるために乗り越え続ける。ただ、この娘にあまり感情移入できるようなエピソードも少ないのだが、なんとなく可愛らしい雰囲気で、あの赤いコートのビジュアルが良かったので、不思議と感動的だ。

 ただ、鏡で反射させてAIのメインカメラにコードを読み込ませるという描写はさすがに無理があるだろうと言わざるをえない。最後の1ピースを、娘に持たせたいという演出は理解できるのだが。

 

 さて、改めて書き出すと、気になった点が沢山出てきてしまった。それでも、視聴後の感覚は悪いものではなかった。2時間分はしっかり楽しむことが出来たし、案外悪くない映画だったように思う。

 たまには期待せず、こんな映画をみるのもよいだろう。