2022年公開。スコット・デリクソン監督作、『ブラック・フォン』を紹介/レビュー。
紹介/感想
原作はスティーブン・キングの息子、ジョー・ヒルによる短編ホラー小説だという、70sアメリカが舞台のサスペンス・ホラー映画。
ストレンジャー・シングス的な、ノスタルジーとジュブナイル感を漂わせつつ、それよりもっと閉塞的で薄暗くて暴力的な世界観で描かれるのは、「グラバー」と呼ばれる連続少年誘拐犯の恐怖。
一人また一人と少年が消えていき、とうとう主人公で気弱な少年・フィニーも監禁の対象となっていってしまうところから物語は動き出す。
ホラーといいつつも、ホラー描写やゴア描写はかなり控えめ。ただし、件の「グラバー」自体は中々恐ろしいキャラクターとして描かれていて、往年のスラッシャーものへのリスペクトを感じさせる出来。
何の事前情報もなしに観ていた私。観ていたときの率直な感想としては、まず「これは一体どういうジャンルの映画なのか」という疑問がずっとつきまとっていた。
グラバーを追うサスペンス? 監禁部屋から脱出するサバイバル? グラバーの餌食となった少年たちによるホラー? スラッシャー? 超能力?
いくつもの疑問があたまを駆け巡りつつも、だんだんと絶望感と緊迫感を増しながらエンディングまで駆け抜けていき、なかなかそれなりに満足できたなというところであった。いやしかし、最終的にも結局これは何映画というべきだったのかというところの答えは見つからない映画でもあった。
(以下はネタバレを含みます)
親友との絆と、兄妹の愛
物語の軸の一つとなるのは、主人公と親友のロビンとの絆と、妹のグウェンとの愛の話であった。
特に、ロビンとの最後の会話は、なんだかバカバカしさがありつつも、でも感動的で、ちょっとだけ目頭が熱くなった。
妹の存在も、正直に言うと果たして彼女はどれほど物語に貢献したのかというところは謎ではあるのだが、少なくとも真っ直ぐな兄と妹の家族愛には感動させられる面もしっかりあった。
主役は子どもたち
ポスターには堂々と「イーサン・ホーク」の名前が前面に押し出されていて、実際に彼の演技も評価されているところではあるのだが、個人的にはやはり子どもたちの演技が良かったと思える映画だった。
特に、主演となったメイソン・テムズは、気弱でひ弱そうだけれども芯があって、いじめられっ子なのになぜか番長的なロビンと仲が良かったりする、難しい役柄であったのだがまさにそれにぴったりなキャラクターを演じきっていた。
まあしかし、いくらなんでも子どもたちが暴力的すぎるというか、子どもたちの喧嘩で血が流れすぎだろうとは思うのだが……w
ラストは割とスッキリ
黒電話から聞こえる声の力を何度も借り、しかしそのたびに失敗してきた主人公。
だが、物語の最後の最後は、それらのアドバイスが全て上手く組み合わさり、パズルが解けたというような開放感を味あわせてくれる。
このおかげで、なんとなく良いものをみたなという気分にさせられるし、満足出来たところでもあった。
しかし、結局のところのグラバーの意図とか、その後みたいなところはほとんど描かれないし、ラストも「え、それで終わるの⁉️」と驚愕のエンドロールに突入。ほんとにそれでいいの?感は今でも拭えていないところだ。
ツッコミどころはわりと満載
あまり映画の細かいところは気にならないタイプな私だが、それでも割と全体的に「それでいいのか?」と思ってしまうところは多い映画でもあった。海外の批評記事を引用すると、
- グウェンはなぜ夢で見た家のことをすぐ警察に言わなかったのか
- 監禁部屋に武器になるものが多すぎる
- グラバーはなんで監禁部屋の異変に気づかなかったのか
- なぜあんなに被害者が出てるのに街が封鎖されていないのか
- なぜグラバーはフィニーが脱走しようとしたあとフィニーを殺さなかったのか
などなど、その他にも多数の疑問点が指摘されている。というか、そもそもなぜフィニーには黒電話からの声が聞こえるのか、グウェンはなぜ予知夢を見れるのかといったところにも、映画は一切の説明を行わない。
まああまり言うのも野暮というか、細かいところは考察しろといったところなのかもしれないが……すっかり無視するというのもどうなのかというところなのである。
まとめ
何も知らずに観始めると、割と面を食らう映画だったのだが、観終わってみるとなかなか楽しめた映画だった。
世間的にそれなりに評価が高いのは個人的には謎なところで、かなりピーキーというか、人を選ぶ作品のような気もするのだが……。人の評価というのは難しいところである、としみじみ思うのであった。
ちなみに本作、続編も公開予定とのことだが、全くどんな映画になるのか想像もつかないので逆にちょっと楽しみだったりする。