2023年公開。映画『佇むモンスター』を紹介。
あらすじ
たった一人でモンスター映画を制作している男・賢治は、ある日、町を彷徨っていた9歳の少女・樹梨杏と出会う。
やがて二人は親しくなるが、どうやら少女は学校にも通っていないらしい事実をつかむ。さらに、極度の精神疾患を患った母親から虐待を受けていることも判明。賢治は、思い悩んだ末に監視用の犬型のおもちゃを少女に手渡し、母親から虐げられたときは録画スイッチ を入れて撮影するように言い聞かせる。
後日、樹梨杏から受け取った犬のおもちゃには、目を覆うほどの衝撃的な映像が残されていた。
紹介
いつものようにアマプラを適当にスクロールしていたら、気になるサムネを見かけたので早速視聴。紹介を見ると新感覚Jホラーとなっていた。
本作は、児童虐待をテーマとした、社会派ドキュメンタリー的要素を持った作品。ホラーと銘打たれているものの、そのホラー要素はかなり薄め。どちらかというと、精神的に痛々しく突き刺さってくるタイプの作品だ。
一人で自主制作映画を撮影している、弱々しくも優しい主人公と、同じく弱々しい少女。悲惨な状態から逃げ出そうとするその様は、見ているこちらがつらくなってくるほどだ。
ホラー要素をその一身に担うのは、少女の母親であり、始めて登場したときには、普段からホラー映画を見慣れている自分でもオッと思わされる異形っぷりであった。
それらの要素に加えて、なんだか他人事で白々しく、おバカなシーンや台詞も見受けられる。不思議な仕上がりの作品となっている。
以下はネタバレあり感想です。ご注意ください。
低予算ながら惹き込まれる作品
やはり低予算作品(ここでいう低予算とは、大手資本の手が入っていないという意味であり、実際にどれくらいお金がかかっているかは存じ上げません)であり、映像的には既存作品と比べても、見劣りしてしまう。ここがまず気になってしまう人には、見るのが苦しいかもしれない。
だが、そこを乗り越えられるのであれば、意外にも正味90分のめり込める作品であった。
個人的にグッと来たのは、なんといっても主演の柳内佑介さんの好演。優しくも弱々しく、頼りにできない感じの主人公は、感情移入しやすいし、でもなんでそうしちゃうんだよ!とより痛々しい現状が突き刺さってしまうキャラクターだった。
物語は中盤から、思い描いた通りの最悪な方向へ進んでいく。そのやるせなさの一部は、実際のとある虐待事件がベースになっているからということであろうが、それにしてもやりきれない。
母親の造形がグッドだが、見せ方には不満
安っぽい白いマスクを被った母。まさしくモンスターという風貌で、個人的にはかなりグッときたビジュアルだった。
ただ、初登場した直後に、なぜそのビジュアルになったのかを映画的に説明してしまう。これは少し残念に感じた部分だった。
最後まで明かさないか、もっと断片的に見せてぼやかしたほうが、彼女の原動力を不気味にさせることが出来たのではないかと考えてしまった。
まあ、この母親の恐怖というところにもっとクローズアップしてほしいというのは、ホラーファン的な意見であって、この作品で描きたいテーマとは違うのであろうが。
まとめ・ちょびっと考察
途中、一箇所気になったのは、謎のエフェクトがかけられた視覚障害らしき男性のシーン。ただただ不気味なだけで、なんの意味があるのかが個人的にはよく分からなかった。
本作のポスターには佇むモンスターというタイトルと合わせて、THE MONSTERSというタイトルがついている。あの母親だけがモンスターなら、タイトルはTHE MONSTERであろう。
きっと、複数形にしているのは、他にもモンスターがいるからなのだ。例えば、彼女の虐待から少女を助けようとしない周囲の人間たち。主人公がずっと撮影している作中映画『人間がいなくなった』とは、現実世界にも反映されていて、この世には怪物しかいないということの暗喩なのではないだろうか。
是枝裕和監督の『誰も知らない (2004)』でもそうだったように、この世は思っているよりも冷たく辛い場所だ。その中で主人公は映画世界と愛犬に暖かさを見出していたのかもしれない。