ささざめブログ

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【映画】笑顔の死の連鎖を描くサイコホラー『スマイル (2022)』

2022年公開。映画『スマイル』を紹介・レビュー。

あらすじ

精神科医ローズは、担当教授が自殺する現場を目撃した大学院生ローラのセラピーを行なうことになった。
事件以来、さまざまな人間に姿を変える邪悪な存在が見えるようになったというローラはおびえきっていたが、突然錯乱し、満面の笑みを浮かべながら喉をかき切って絶命する。
ローズは激しいショックを受け、その日以来奇怪な出来事に悩まされる。繰り返される惨劇と“笑顔”の連鎖に、やがてローズの精神は追い詰められて……。

出典:SMILE/スマイル | 映画 | WOWOWオンライン

紹介

 2022年公開。パーカー・フィン監督による初の長編映画監督作であり、比較的低予算でありながらアメリカではかなりの大ヒットとなったホラー作品。

 リングやイットとの類似性が指摘されながらも、スティーブン・キングも称賛していて、新たな人気ホラーシリーズとしての頭角を表している作品だ。2024年には第二作の公開も予定されている。

 満面の笑みと恐怖をミックスして、背筋がゾワッとくる映像を作り上げられていて、初長編監督作とは思えない出来である。

 主演はソシー・ベーコンで、彼女はあのケヴィン・ベーコンの実の娘である。彼女の好演ぶりも凄まじく、恐怖に怯え、立ち向かおうとする悲惨な姿には一見の価値があるはずだ。

 

 以下はネタバレあり感想です。ご注意ください!

 

冒頭の事件のシーンが最高

 この映画の最高潮は、(良くも悪くも)冒頭シーンにある。怪異に既に囚われている女性の自害シーンだ。恐怖に怯えた姿から一転して満面の笑み、無音。

画像引用元:IMDB

 このシーンで、映画の緊張感は最高潮に達する。忘れられない笑顔だった。これを見るだけでも価値があるといえるほど。

 

不満なポイントも多い

 序盤の最高シーンの後は、地味でストレスフルな展開が続く。

 呪いに侵されていく主人公。誰にも信じてもらえない恐怖。これは、実際に精神的な病に苦しむ人の精神構造を描いているのではないだろうか。その呪いの存在が明確になるまでは、主人公だけがやはりおかしいのかもと思えてくるほど不安になってくるのだ。

 このシナリオと演出は、賛否が分かれるところだろう。個人的にはあまり楽しくなく、最初の興奮と比べてつまらないなと感じてしまうところであった。また、動物が犠牲になるシーンもあり、なかなか辛いものである。

 その他にも、ジャンプスケアが多いところも個人的なマイナスポイントだ。もちろん、ジャンプスケア自体が悪いわけではないのだが、もっと違った恐怖が演出出来ているのにジャンプスケアに頼らなくても良いではないか、と感じてしまうのだ。

 特に、とあるシーンで、聞き取りにくい音声を聞き取るために音量を大きくしたところへのジャンプスケアは、予想はできただろうがそれでも性格が悪すぎるだろうと思った。ズルいし。

 

現実と幻覚が交わる演出

 本作の恐怖シーンは、それが現実なのか幻覚なのか分からないという形で演出される。昔ながらの演出ではあるものの、やはりこれは強力で、非常に良い恐怖表現担っていると感じた。

 私が特に好きなのは、部屋に侵入者があったのではないかという防犯アラームがなり、警備会社からの電話がくるシーン。オペレータの女性が言う「誰も入れていませんか?」「ええ」「……本当に?」はメチャクチャ性格が悪くて最高!

 終盤の怪異との戦いでは一転してモンスターが登場してしまうのがやや残念だが、これもある意味お約束のようなものだろう。それでも、ITでは味わえなかった絶望を最後に味あわせてくれるので満足度は高い。

 

音響が素晴らしい

 私がこの映画で最も素晴らしいと感じたのは、サウンド面だ。

 各所で使われる不気味でおどろおどろしいその音楽が、作品への没入感を高めてくれる。
 先述の通り、途中ダレてしまうようなシーンもあったのだが、この音楽のおかげで最後まで見ることができたようなものだ。

 特に見逃せないのが、エンドロール。最悪の結末の後に流れる曲で、私は声を上げて笑ってしまった。最低だ!と。是非その聞き馴染みのあるアノ曲のインパクトを味わってほしい。

 1曲目のあとに流れる2曲目も、本来の恐ろしいサウンドトラックが帰ってきてこちらもナイスである。

 

まとめ

 結局のところ、あの怪異/呪いがどういう存在なのかというのは映画的には明かされない。これは意図的にそうされているものであるらしい。2024年公開予定の2で、一部が語られるのではないかと思う。

 トラウマや罪悪感を偽りの笑顔で固め、死をもたらし恐怖を伝染させるその怪異の一端。続編が来る前に是非楽しんでみてはいかがだろうか。