テレビ東京にて、4月30日0時30分に放送された異色の番組『イシナガキクエを探しています』についての紹介です。
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作品紹介と感想
近年、伝説的作品『蓋』を筆頭に、フェイクドキュメンタリー的な作品に力を入れているテレビ東京。なかでも人気なのが、大森時生氏の打ち出した『Aマッソのがんばれ奥様ッソ! 』『テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?』『祓除』などのホラー要素を色濃くもつ作品群。
そんな大森時生Pが今回タッグを組んだのは、今最も熱いホラー作品の一つ、『フェイクドキュメンタリー「Q」』シリーズを手掛ける皆口大地、寺内康太郎両名。前回の『祓除』で大森P×寺内監督が見られたところに、とうとう皆口さんまで加わって、モキュメンタリ―アベンジャーズ的な様相を見せだしているという状況です。
今回はさらに、第二回日本ホラー映画大賞を受賞されたという近藤亮太監督が名前を連ねていたり、メイン音楽をキタニタツヤが担当していたりと色々と盛沢山。
個人的に、どの作品も前のめりに楽しんでいるだけに、今回のこの作品はもう心躍る思いで視聴。結果、しっかり食らってしまった。まだ第一話の時点でまだ続きがあるようなのだが、既にとにかく不気味だし、唸らされる気持ち悪さが全開だった。
今回の放送枠は『TXQ FICTION』とされており、これまでの作品よりもフィクションであることをより明示した形となっている。そのためか、今回の題材は「行方不明者捜索番組」という、昔懐かしながらも前衛的なテーマで勝負にでている。
実際に見てみると、しっかりと追跡番組の体をなしており、奥様ッソなどで見ることが出来た「マジのTV番組感」は完璧。これは確かに、フィクションであると表に出しておかないと問題になってしまいそうなレベル。
ゆっくりと番組は進行していき、明らかにオカシい登場人物なんかも登場しつつも、明確な「ナニカ」は画面に映さずに怖さ・居心地の悪さを実現する手法はまさにフェイクドキュメンタリーQシリーズが思い出されます。
多数のギミックの他に、個人的に拍手を送りたいのは、イシナガキクエを探し続ける老人・米原さんを演じることとなった中山克己氏の名演。「存在自体が疑わしい」と言われてからの間の演技で息を飲みました。圧巻。
フィクションであると明言しているからこそ、次になにが起きてもおかしくないという楽しさもありますし、今回は番組で取り扱われていた電話番号がどうも実際に繋がるものだったらしいなんて話もあり(ホントに?とおもってますがw)、そんな大掛かりにリアルと繋がる要素も持ち出したりと、非常に力の入った作品であることが伺えます。
GWといいつつ、私はカレンダー通り今日までしっかり働いていたのでようやくまとまった休みが…と言ったところだったのですが、おかげで疲れも吹き飛びました。
しかもまだ続きがみれるということで、次回が今から楽しみですね!
残された疑問と最高ポイント
公開直後から、多数の考察が飛び交う本作。今更私が色々書いても二番煎じだな、と思うのでここでは個人的にこれはなんだったんだろうと思ったところや気持ち悪い!と声をあげたところ(褒め言葉)を並べていきたいと思います。
考察というほどではないのですが、ちょこっとネタバレ注意です。
TV局はなぜ米原さんに密着しだしたのか
このあたり、全く説明もなく、ただ「2023年10月から2024年1月」という長い期間彼に密着していたという情報だけが提示されます。そして、米原さんの死後、数か月たった4月末に本放送を迎えたことになります。
そもそものきっかけの部分はなんだったのか。例えば米原さんがTV局にかけあったのか、あるいは誰かからそういう情報が垂れ込まれたのか。そこの背景が全く見えないのは気になりますね。
米原さんの意思は
イシナガキクエの存在自体が疑わしいとスタッフから言われた米原さん。激高するかと思いきやそうではなく、「信用してもいいんですよね」と落ち着いた口調で言って、例の写真を持ち出してきます。
どうも、これは米原さんがTVクルーに「本気で探す気があるんだな」という意思確認のように見えました。そして、覚悟を決めたかのように写真を取り出し、スタッフにそれを渡すと、まるでバトンタッチしたかのように以降は一切画面に登場しなくなります。
やはり米原さんはイシナガキクエに会いたかったのではなく、ただイシナガキクエを探しつづけなければいけない理由があったのでしょうか。そして、それを本気で受け継いでくれる人に出会ったから、自分は退いたのか。果たして、彼の思惑とはなんだったのか……。
取材の日の2週間後に息を引き取ったという米原さん。その死はどうかんがえてもイシナガキクエを探す行為そのものと結びつけずにはいられません。死ぬと分かってあの写真を差し出してきたのか、なんて考えるとワクワクしますね!
のっぺらぼうをAIで鮮明にするという凶悪な発想
手渡されたイシナガキクエの写真は、本作のキービジュアルなどで登場している「ほとんどのっぺらぼう」な状態。番組ではそれをAIで補正して画面に映し出します。このあたりの発想、まあ確かに古い写真をきれいにするというのはよく見かける話ですが、この演出には脱帽です。気持ち悪い!(褒めてます)。
55年前の写真をそもそも補正してきれいに見せる意味が全然わからないのですが、米原さんが「おもなが」なんて少ない文字情報だけで探していたのを、急に解像度を高めて具体的に表現することは、なんだかとても邪悪なことをこの人たちはしているんじゃないかという気がしてきます。恐ろしいですね。
深夜なのに続々あつまる情報提供
イシナガキクエという名前と、相当な高齢女性であろうという点以外の情報が殆ど意味をなしていない状況だというのに、情報提供を呼び掛けたとたんに多数の情報が集まるところが映し出されます。
イカレた視聴者がいっぱいいやがるぜ! という楽しみ方もできますし、なんとなく視聴者に「私もそういえばイシナガキクエみたいな人見たことあるかも」と思わせたいのかな、なんていう風にも思えます。
皆が想像するイシナガキクエがどんどん形を帯びていき……なんていう風な考察がネットでは多く見られて楽しいです。
提供映像はさすがのクオリティ
「米原さんの家の周りを誰かが…」なんていう意味の分からない情報提供をしてきた人から送られてきた映像。ここはここまで鳴りを潜めていたホラー班の意地の見せ所という感じで、なんだかわからないけれどめちゃくちゃ不気味というのが完璧に表現されます。
なぞのうめき声のような音、家探ししているかのように家の中を歩き回る複数の影、そしてそれを遠くから眺める撮影者。すべてが謎で、気持ちが悪くて、最高です。
ちなみに……
エンド画面で、出演者や制作陣の名前が確認できます。その中で、重要そうな位置にいる「堀口さほ」さん。
おそらく、位置から見るに、この方が今回「イシナガキクエ」を演じられているのではないかと思われるのですが、堀口さほさんのことを調べてみてもそれらしい情報は出てこず、これもなにか仕掛けが?と勘ぐってしまうところです。
まあ、『祓除』のときのよしぴよ氏のように、あまり世間的には有名でない原石を見つけてきてるだけかもしれないですが(笑)
これを機に? 色んな関連作品無料配信中!
大森時生P関連作品が一通りTVerで無料配信中。まだ見てない気になる作品がある方はぜひ!
特定のサブスクに加入していないとなかなか観るチャンスがない作品もあるので……。
ちなみに、個人的にこのラインナップでは奥様ッソが一番好きだったりします。『イシナガキクエを――』や『祓除』とはまた違ったテイストで、シンプルかつ面白いし、かなり『放送禁止』に近い感じがして好みなのです。
『このテープ』『SIX HACK』『祓除』はどれもチャレンジングというか、かなり観る人を選ぶ作品なので、気軽にオススメはしにくいですね(笑)
あと今回の作品とは直接関係ないですが、個人的にとても応援している雨穴さんが関わっている『何かおかしい』も配信されているので、改めて見てみようかなと思っていたりする私です。
まとめ
ネットでは色々と考察なんかも盛り上がっている本作。今回は視聴が出遅れたのもあって、自分でどうこうするよりも皆さんの考察を読んでふんふんと楽しんでいました。
早く次の回が見たいですね。今から既に待ち遠しいです!
あと、関係ないですが、そろそろ放送禁止の新作をね……フジテレビさんね……(と、フェイクドキュメンタリー系の作品が話題になるたびに言っています)。
- 余談
なんだか最近、フェイクドキュメンタリー/モキュメンタリーという言葉が独り歩きして、逆にそれを毛嫌いする「モキュメンタリーアレルギー」みたいな人も見かけるようになってきました。
個人的にはフェイクドキュメンタリーとは「嘘だと分かっていても楽しめる」というところに本質があると思っていて、それはホラーだけじゃなくどんなジャンルでも適用できる面白さだと思うのです(コメディも結構代表作品があったりします)。
なので、「フェイクドキュメンタリー、モキュメンタリ―」という言葉だけで拒否反応を起こさずに、もっと気楽に楽しんでもらえたらいいのにな、なんて思ったりするこの頃なのでした。
(まあでも、何となく鼻につく気持ちもわかるんですよね……。歯がゆいです。イチ視聴者がどうこういう話ではないかもですが笑)