ささざめブログ

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【映画】森の中でトリップ体験 スピリチャルサイコホラー『イン・ジ・アース (2021)』

2021年公開。映画『イン・ジ・アース』(原題:IN THE EARTH)を紹介。

紹介

2021年。新型コロナウイルスが猛威を振るう中、パンデミックの影響を受けた作品が多数公開されていた。本作は、その中の一つ。ロックダウンが敢行されたイギリスにて撮影されたのが本作、イン・ジ・アースである。2023年9月現在、Netflix配信中である。

閉塞的な森の中に調査に訪れている主人公と案内人の女性(この女性、ミッドサマーにも出演していた女性。お綺麗なインド系美女で素敵だが、今作でも散々な目に遭う)。

主要な登場人物は4人のみ。主人公たちは森の中である2人の人物に出会うのだが……。

 

公開当時のRotten Tomatoes評は上々で、良作映画なのかと思いきや、ユーザーレビューは怒涛の低評価。実際、私としても誰かにオススメ出来るような作品ではないなという印象を受けた。

アミニズム(精霊信仰)がベースにあるフォークホラー。ブレアウィッチやミッドサマーのフォロワー作品のようにも感じた。作中、いくつかの図柄、ワード、映像でそういう伝承的なものや、超自然的存在が示唆されるため、考察を楽しむタイプの作品なのかとも思う。

 

新型コロナウイルスの影響を受けた作品として、未曾有の原因不明のパンデミックの恐怖というのが映画の中の恐怖体験にも影響しており、その点を評価している声も見受けられる。個人的には、「うーん……」という感じだがw

 

以下は、ネタバレを含む感想を述べる。未見の方はご注意されたし。

光と音の洪水でトリップ体験

この作品、シナリオだけを切り取ると、はっきり言ってかなり退屈だ。主人公の感情は希薄で面白みが少なく、狂人たちの狂気度も足りておらず、超自然的存在の怪異も微妙だ。

その代わり、かなり印象的だったのが、音と映像を効果的に用いたトリップ体験だ。

 

中盤頃から、強い光の点滅や幻覚映像、サブリミナル、そしてそれに加えた重厚なサウンドで、まさにトリップしているような感覚を与えられているように感じた。

ただ、一方で、その光の点滅は光過敏性発作(てんかんの一種)の心配が非常に強く、直視するのは危険だと思えるほどだった。きっと映画館で見ていたら、具合が悪くなるレベルだ。

 

日本では劇場公開されていないが、海外劇場での公開時は、光過敏性発作についての注意が映画冒頭で流れていたそうだが、配信映像にはそういった部分は見受けられなかった。

 

ちょびっと考察(2023/9/25 追記)

どうも、この記事に「インジアース 考察」で飛んできてしまう方がかなり多いようで、大変申し訳無い限りなので、自分なりの物語の考察をここに加えておこうとおもう。

 

物語冒頭、森の精霊「パーナグ・フェグ」についての説明がアルマから行われる。結局のところ、森の中の行方不明現象についてはこの「パーナグ・フェグ」が原因となっていたのであろう。

ではこの正体はなんなのか。端的に言えば、これは「自然」そのものだと私は考えている。より具体的には森の草、木、石、そして菌、それらの集合体。物語としてはこれらが、どうやら人間の思考に影響を及ぼし、森の中での失踪や、狂人化を促していたと考えられている。

しかし「自然」には意思はない。人間を操作するほどの大いなる存在「パーナグ・フェグ」がいるというのはミスリードなのだと私は思っている。

 

物語の中盤、アルマは森の外へ出ようとするも白い煙に入ると幻覚を見てしまい、とうとう出ることは出来なかった。

私はこれも、なにか超常現象的な力が働いたのではなく、実はただ、「超強力な幻覚効果をもつキノコの胞子を吸い込んでしまった」というだけではないのかと推測している。そこになにか意思が介在しているわけではないのだ。

 

主人公の元カノであるオリヴィアと、その元旦那ザックは大いなる存在との交信を求めて様々な実験や儀式を繰り返していたようだ。しかし、それらが実を結ぶことはなく、ただただ精神が狂っていくばかりだった。

余談だが、オリヴィアは、ザックとは違い理知的に、科学的な方法でのコンタクトを狙っている素振りを見せたが、結果的に彼女もカルト的な方法での交信を狙っていたことが、終盤でわかる。

 

主人公、オリビア、ザックの3人は白癬に感染しており、それにより森に引き寄せられたというのがオリヴィアの推測である。彼女が言うには、菌根ネットワークなるものにより白癬の感染者は特定の感情を増幅させられるのだという。

これも実際に影響があるかどうかは不明であるが、懐疑的にならざるを得ない。偶然でしかないというもの十分考えられる。

 

人間は、自然災害などが起きたとき、それが、神や自然といった人間たちより上位の存在の意思が介在して起きた現象だと捉えてしまうことが度々ある。しかし、実際には、地震はプレートの振動、パンデミックはウイルスが増殖活動を行った結果なのであって、そこに大いなる意志のようなものは介在していないというのが私の考えだ。

それにも関わらず、人間は勝手に神や自然の意思を汲み取り、オリヴィアとザックのように周囲を害する存在になってしまうことがある。それこそが、イン・ジ・アースで描かれた恐怖だったのではないだろうか。

 

森はただ、森として生きているだけだったのだ。

 

映画は、生き残ったアルマの「さあ、森の外へ (Let me guide you out of the woods.)」というエコーがかかったようなセリフで映画は終了する。

このセリフは物語をより曖昧にする。もしかすると、彼女は本当に、パーナグ・フェグに操られてしまったのでは?いやいや、そうするとここまでの考察は何だったのだ、ともなる。なんとも悩ましい。

映画として含みをもたせるための演出なのか、はたまたやはりパーナグ・フェグは実在するのか。この問いに答えはないだろう。

 

まとめ

曖昧なストーリーテリングで、結局なんだったの?という感想が絶えない内容で、賛否両論(否が多数)となっているのも納得の内容だった。

ただ、映像表現としては光るものがあったり、考察の余地がある内容は刺さる人には刺さる内容かもしれないと思う。

雑食映画通の方なら見て損はないかもしれない。