ささざめブログ

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【映画】あの映画とは全く関係ないメキシコ産サイコホラー『クワイエット・フォレスト (2016/原題:Las Tinieblas)』

2016年公開。映画『クワイエット・フォレスト (2016/原題:Las Tinieblas)』を紹介・レビュー。

あらすじ

わずかな物音や気配を察知し人間を襲う謎の怪物によって荒廃した世界。アルヘルは深い森の中で父と兄、妹の4人で暮らしていた。病気がちな妹を看病する彼は、父親の言いつけで生まれてから一度も家から出たことがなく、外の世界に憧れを抱きながらも、大きな唸り声をあげて家の周りに群れる怪物に怯える日々を送っていた。ある日、食料の調達へと向かった父と兄。しかし、帰ってきたのは父のみだった。
「“あれ”にさらわれた…。兄は死んだんだ。」
父の言葉を信じようとしないアリゲールは、自ら外に出て兄を探すことを決意。密かにガスマスクを装着し家の外へ踏み出すが、憧れていたはずの「外の世界」は、思いもよらぬ恐怖に満ちていた…。

出典:DVD/Blu-ray|TRANSFORMER

紹介

 2016年公開。メキシコ・フランス共同製作のホラー映画。日本では劇場公開はなく、2018年にDVD販売されたタイトルである。日本版でつけられた邦題は『クワイエット・フォレスト』。完全に『クワイエット・プレイス』のパクリである。

 原題はスペイン語でLas Tinieblas。翻訳すると「闇」であり、英題もそのまま"The Darkness"としている。なのに日本では『クワイエット・フォレスト』である。最低な #クソダサ邦題 じゃないか!と私は憤慨した。

 さて、そんな散々なタイトルを持つ本作。評価としてはかなり賛否両論。いや、どちらかというと否が多い状態だ。理由はいくつも考えられるのだが、まず日本人からの評価として、『クワイエット・プレイス』とは全く異なる映画であるというのも大きかった点だ。

 本作は、かなりゆっくりと、静かに恐怖が描かれる。モンスターの造形なども一切描かれず、ただ霧の深い森の中で、不穏な雰囲気をずっと保ちながら、悲しく切ない家族の姿を描き出している。

 様々な謎は映像的に回収されずにそのまま終了してしまうのも、批判を受けているポイントだ。かなり映像的な雰囲気と、重厚な演技に支えられている映画だと言って良いだろう。

 

 以下はネタバレあり感想と少しばかりの考察です。ご注意ください!

終末後の退廃的な世界

 映画の中で描かれるのは、なにかの終末を迎えてしばらくたった世界で生きる、父と息子・娘の3人家族だ。

 途中、朽ち果てた車をみて、それが何かと尋ねる息子が描かれることからも、終末を迎えてかなりの年月が立っている状態だというのがわかる。

 海外の記事などを読んでいて、また、メキシコの映画であるというのにも照らし合わせると、これらの設定はどうやら、キリスト教の信仰をベースにしている部分が大きそうだ。この世界は、ヨハネの黙示録の後を描いているのだろうという考えが見受けられた。映画冒頭で聖書(?)を読む少年が描かれるのも、そういった背景を表現しようとしているのではないかと思った。

 そんな終末世界の中で、姿の見えない怪物に怯えながら、静かに生きている家族。明確には語られないが、おそらく兄や母との別れも経て、現在の3人での暮らしを迎えているようだ。

 霧の深い森や、暗く寂れた家、前時代的なガスマスクなど、様々な映像からその退廃的で悲惨なバックグラウンドというのがひしひしと伝わってくる。

 

描かれているのは父の狂気か、家族愛か

 結局、この映画の怪物とはなんだったのか、というは、この映画を見た多くの人が描いた謎だろう。このあたりは、観客に委ねられているものだろうかとも感じた。

 ここからは個人的な考えだが、この映画で描かれるのは、父の不器用な愛だろう。途中、家族の元に訪れる老いた男が言う通り、彼は善人なのだ。

 しかし、物語としては、例えば娘が「部屋に怪物がいる」と言ってきたり、怪物の音を鳴らす機械が家の中に隠されていたり、あまりにも不穏過ぎる操り人形が登場したりと、どう受け取ればいいのか分からない情報が沢山出てくる。

 主人公となる少年も、そんな父の姿を見たり、外部からの人間の言葉に振り回されたりして、父を強く疑い、そして裏切ってしまう。

 しかし、映画のラストでは、父は最後まで父として家族を守ったであろう姿を見せる。やはり彼は善人だったのだ。そう信じたくなるラストだ。

 親の考えは子供には伝わらない。そんなもどかしさを表現したかったのではないだろうか。

 

まとめ

 かなり多くの部分を曖昧にした結果、エンディングを見ても何も残らなかった、なんて評価を受けてしまった本作。ただ、映画全体に流れる、悲しく、暗く、退廃的な雰囲気は素晴らしいと感じられた。

 少なくとも、クワイエット・プレイスとは全く異なる楽しみ方をしなければならない作品だ。是非、邦題を忘れて、その雰囲気を味わってみてはいかがだろうか。