2023年8月発売。背筋著作『近畿地方のある場所について』の紹介、レビュー。
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紹介
今年、SNS上でかなりの話題となったホラー小説があった。カクヨムにて連載されたそれが、本作『近畿地方のある場所について』だ。
近年、フェイクドキュメンタリー「Q」シリーズなどで隆盛が見られる「ホラードキュメンタリー(モキュメンタリー)」的な雰囲気を持った小説となっていて、今までに味わったことのないような読書体験を得ることができる快作である。
作品のスタイルとしては、ある地域が関連する怪談と、それらをまとめているオカルト雑誌の編集者とライターの会話が繰り返されていく。散りばめられた謎は終盤一気に回収されていき、衝撃のラストを迎える。
謎が謎のままモヤモヤしておわる、なんて作風も多いジャンルながら、本作はキッチリ恐怖を叩きつけてくれる。そこが気持ちよく、それでいて個々の怪談もなかなかに気持ちが悪く、怖い。
2chのオカルト板で、洒落怖を追っていたような私には、もう色々とぶっ刺さる内容であった。大ヒットしすぎてて、若干今更かなと思ったところだったが、これは読んで損しない作品だ。
以下、ネタバレあり感想です。ご注意ください。
バカ強い怪異は良い
この作品に出てくる怪異たち、なかなか殺意が高い。関わった者たちが皆死んでしまうというわけではないのがまた怖い。何故生き残ったのか、なんともなかったのかが、最初のうちは全く分からず、ただただ強い力を持っているということだけが分かる。
登場人物たちの無意識の行動をコントロールしているような描写も多く、どこからどこまでが彼ら自身の言葉で、どこからがそうでないのかが曖昧なため、ずっと暗闇の中を裸足で歩かされているような恐怖感を味わうことが出来た。
赤い女、怖すぎ
本作の最強怪異ではないのだが、この赤い女、マジで怖すぎで最高だった。ぴょんぴょん飛び跳ねる描写、想像するだけで怖い(可愛い)くて、絵がうまかったらファンアートを書きたいくらいだった。
窓の外で両手を挙げながらぴょんぴょん飛び跳ね首をぐでんぐでんとさせてる姿、もし遭遇したら発狂すること必至だろう。八尺様とかアクサラとか、そういう有名女性怪異の仲間入りをしてもいいくらいインパクトがあった。これという名前がないのが残念だが、まあ経緯が経緯だけに仕方ない気もする。
2chオカルト板の匂いが懐かしい
途中挟まれる、掲示板の書き込み再現は、ほぼ「蓋」ではないかとも思ったし、サルの存在が大きい所や、得体のしれない怪異の存在には「ヒサルキ」や「猿夢」を感じさせられたし、真っ白な巨大な手には「くねくね」、山の中の恐怖は「ヤマノケ」などなど……あの頃熱中した怪談の雰囲気をそこかしこに感じることができる。
学校の休み時間、携帯を開いてはオカルト板を眺めていた私にとって、あの頃の楽しさを思い出さんばかりの内容だった。
まとめ
語り手に関する真実も明らかになる終盤で、なんとも上手い作品だとつくづく思わされた。単純に個々の怪談たちが高いクオリティで綴られるだけでなく、一冊に完璧にまとめあげられている。
点と点がつながる感覚は、その線が非常に凶悪で歪ながらも、気持ちの良さを感じるほどだった。
どうやら、漫画化まできまっているとのことで、これからの展開が気になる一作である。