ささざめブログ

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【漫画】不思議で暖かくて笑えるコメディ漫画『紙一重りんちゃん』(全2巻/著:長崎ライチ)の感想

 『紙一重りんちゃん』を紹介/レビュー。

紹介

 奇天烈で優雅で不思議なテイストで大人気だった4コマ漫画、『ふうらい姉妹』を書いた長崎ライチ先生による、天才だけどおバカな面もたっぷりな少女りんちゃんとその周囲の人々を描くギャグ/コメデイ漫画。実は、デビュー作をリメイクしたものらしい。

 まさに第一巻の表紙で表現される「100年後には地球のメンバーってごっそり入れかわってるね」なんて、不思議でなんだか可笑しい表現がそこかしこに登場する漫画だ。

 わたしは、元々ふうらい姉妹の大ファンで、何度も読み返すほどだったのだが、その後新作が出ていたのを知らず、つい最近初めて知り、即日購入に至った。

 

 ふうらい姉妹では、とにかく阿呆で、でもなんだか優雅で気持ちのいい姉妹が描かれた。今回は一転して、もうとにかく賢いりんちゃんが主人公だ。所謂アインシュタイン的な主人公で、頭が良いかわりにド級の変人でもある。そんな彼女を中心に描かれる物語は、前作とはまた違った楽しさを提供してくれていた。

 りんちゃんの周りの人々もとにかく素晴らしい。ギャグ漫画らしい強烈なツッコミ役がいない代わりに、りんちゃんを優しく見守ったり、適切な指摘で笑わせてくれたり、ときに友情や愛情を覗かせたり。温かい気持ちにさせられる漫画だ。

 もちろん、長崎ライチらしい、奇天烈で特徴的な発想や言い回しは健在。とにかく自分には刺さりまくりだ。大好きな作品の一つになった。2巻で完結してしまったのが非常に残念である。

(購入はこちらから)

 

 以下、特に好きな回の好きな話を書いておきます。ネタバレ注意!

特に好きだった話

第一回:メモ要らず

 ビデオメモリーにより、見たもの全部を記憶しているというりんちゃんの話を聞いたお父さん。やかんから直接飲んだり、アイスの蓋の裏を舐めたりする自分のちょっと恥ずかしい行動を思い出してしまう。ここで返す「見ないでください ぎくしゃくしますので」という台詞と、それを聞いてのほほんと笑っているりんちゃんの対比が絶妙で素晴らしい。

 まんが全体で、お父さんはかなりの変人として描かれるのだが、りんちゃんの言動に対する反応が毎回新鮮で予想外のためかなり好きなキャラクターの一人だ。

 

第二回:本

 友達から本を借りてきたりんちゃん。借りてきたタイトルがあまりにも良過ぎて、大笑いしてしまった。

「考えるな感じろ」と君が言ってくれるとき「考えるな感じろ」と君は考えているんだよね!?

 この引用を書きながらまた笑ってしまった。こういう気づきを得られる人間になりたい。

 

第六回:あの頃

 生まれて最初に話した言葉がなにかを思い出すりんちゃん。最初がママ、次はみみ、つき、しじみ……と全て覚えている模様。なかなか登場しない「パパ」の二文字にたいして、「いつ……ていうか出てくる?」なんて気弱に聞いてしまうパパが可愛い。飛ばされていた順番には、なんでそこ!?というツッコミが脳内で止まらなかった。

 

第十一回:みんなで言ってみよう

 老若男女がみぴょこぴょこ、なんて聞いたこともない新種の早口言葉が急に登場する。「情景を思い浮かべたらうまく言えるよ」というところからのシンプル天丼で笑ってしまった。まっすぐど真ん中ストレートのお笑いって感じで良い。

 

第十三回:秋風と共にひとりごと

 りんちゃんが独り言を言う話。「ものマネ」ってみてるとなんか楽しい なんで!?」という独白からは、思いもよらぬ共感があった。確かに、そうかも。不思議。りんちゃんのこういう変な気づきをずっと聞いていたい。

 

第二十二回:UVカット

 つばが広めの麦わら帽子を被った可愛いりんちゃんによる素朴な疑問の回。「どこらへんまでつばを広げたら邪魔かな?」なんて、訳の分からない発想が展開されるのだが、漫画で映像にされると途端に面白い。
 りんちゃんの親友、こだまちゃんの「なんで?」というシンプルツッコミで笑わせられた。毎回、ゆるく的確に突っ込むこだまちゃんも、超絶好きなキャラクターです。なぜか関西弁だし。

 

第二十三回

 作品に深みが持たされる回の一つ。自分の誕生日を喜べないこだまちゃんと、それを全力でお祝いするりんちゃんの関係性がたまらない。普段は見えない、りんちゃんの、弱々しい部分というのが、超高性能なAIクリームちゃんのお陰で垣間見える。

 ただ単に面白おかしい世界なのではなくて、やっぱりどこか現実のように辛い部分がそこかしこにあって、だけれど素敵なキャラクター達が彩っている世界なのだというのを感じさせられる回だ。暖かくなるし、元気をもらえるタイプの話だった。

 個人的には、むにぃ~っとケーキを割るコマがあまりにも好きで、ここだけ切り抜いたアクリルスタンドがあったら買いたいと思うくらいだった。

 

あとがき

 最終回も、感動的で、でもさらりと終わっていく。なんとも儚く感じさせられてしまった。そして、読んでよかったと思わされた。

 長崎ライチ先生は、実の姉妹でやっていたユニットで、お姉さんが原作、妹さんが作画を担当されていたらしい(ツイッター上では長崎ライチa(姉のa)と長崎ライチi(妹のi)で活動されている)。しかし、i先生のほうは2022年で作家業を引退されており、今後はa先生のほうだけで活動される様子だ。

 あの不思議で楽しい世界は、古典漫画のようなタッチで、でも全然古臭くなく、絶妙で上品なあの絵で味わっていたかった。とても残念だ。もちろん、勝手なことを言うのは憚られるが、是非またどこかで二人の作る漫画というのを読んでみたいものだ。まあ、そうでなくとも、幸せな人生を歩んでいてほしいと心から願う(誰が言っているんだという話なのだが)

 また、今後も長崎ライチa先生の作品には是非とも期待したい。漫画でなくとも、小説でもエッセイでも、なんでもよいのです。YouTubeで活動されているのも見て、やっぱり素敵だと感じてしまったもので。絶妙な雰囲気すぎて、流石に視聴回数は伸びないだろうという雰囲気だったけれどもw

youtu.be

 不思議で魅力的なコメディを求めている方は、是非、氏の作品を読んでみてはいかがだろうか。