ささざめブログ

さめざめと語ります。日記、エッセイ、短編、感想、その他。

【漫画】地震災害からの建て直し『ナガサレール イエタテール』の感想

ニコ・ニコルソン著『ナガサレール イエタテール』を紹介/レビュー。

(購入はこちらから)

紹介/感想

2011年の東日本大震災。3.11で実際に実家が地震津波被害により、全壊となったところから、文字通り家を「再建(リフォーム)」するまでを赤裸々に描いたエッセイ漫画。

ニコ・ニコルソンのファンだというパートナーのオススメで、今回1/1の能登での震災があったこともあり、読むことにした。

第16回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選ばれた作品のようで、実際に読んでみると、非常にパワーのある作品。単純に災害の恐ろしさを伝えているというわけではなく、むしろ、災害そのものについてはややあっさりと伝えつつ、その後の生活についてを重点的に知ることができる。

また、津波の被害にもあい、移住も考えなければならない状況での「再建」という選択に至った葛藤も描かれているのだが、この問題は今きっと日本中で起きていることで、正解のない問題を提示されているような気分にもなる作品だった。


今、実際に被災してしまった方々でも、そうでない人々でも、心が落ち着いたときにはぜひ一度読んでみてほしい一冊だ。

なにかと身につまされる読書体験

本作には教訓になるような話が沢山掲載されている。例えば、津波で土砂やがれきに飲まれた家の中のへそくり(300万円)を探し出す話は、現金や貴重品の管理の仕方を気を付けたくなるとか、片付けに入ってくれたボランティアさんに私物を見られるかもしれないから恥ずかしいものは処理しておくべきだとか。

生々しい話だが、お金や、災害後の手続きの話なんかもかなりためになる。再建のために、もともとかけていた保険の補償をフルに使う話。罹災証明の話や詐欺の話など、ミニコラムとしてちょこっと書かれているところにも、知見が多分に含まれているのだ(もちろん、仕組みの変化や、個々人の状況に合わせて異なる事情は多分に考慮しなければならないが)。

そして、もっとも考えさせられるのは、家族と住み慣れた土地とのかかわり方についてだ。

家を再建するという選択肢は果たして正解だったのか

作中では、祖母の強い意思により、津波被害にあった土地にて家を再建することが決定する。

ただ、施工業者が見つからなかったり、当初予定よりもはるかに大きな予算となってしまったりとトラブル続き。果てには、母の大病や、祖母の認知症など、様々な苦難が筆者家族に降りかかる。

果たして、家を再建するという選択肢が正解だったかどうかは、誰にも判断はできない。他人が口を出してはいけない問題だろう。だが、読者はこの話を自分に置き換えて、自分ならどうするだろうかと考える必要があると思う。


もし私が同じ状況にいたら。家を建て直そうという選択肢は選べなかったと思う。でも、もし自分の家族が強くそれを希望したら……。まだ、今の私に、その時の言葉は思い浮かんでいない。

まとめ

地震災害という、重いテーマながら、コミカルに描かれた本作。きっと、紙面には残されなかった沢山の苦悩や辛さもあっただろうとは推測するのだが、そこはあまり感じさせず楽しく読むことが出来た。

そして、それ以上に大きな課題を与えられたような気分になる作品。ぜひ手元に置いておきたい一冊だ。

ちなみに、通常版と完全版があるので、今買うなら完全版がオススメだ。