ささざめブログ

さめざめと語ります。日記、エッセイ、短編、感想、その他。

【エッセイ】俺たちは雰囲気で映画を観ている

 こんにちは。ささざめです。

 私は映画を見るのが好きです。おそらく世間の中央値よりは多くの作品を見ている側であろうと思います。(平均を取ると、何万と見ている異常者がいそうなので中央値と言っています。)

 そんな私ですが、いざ、映画のことを語ろうと思っても、大した言葉が出てきません。ただ単に、見ていて楽しかったり、怒ったり、悲しんだり、あるいはなんの感情も揺れ動かずただ時間を無為にしたり。そのときどきの感情を抱えながら、時間つぶしに楽しんでいるのです。

 

 世間の、映画について語る人々をTwitterやFilmarksなどで見ていると、様々な言葉で鑑賞した作品を修飾して紹介しています。それを見るたびに、自分は「映画が好き」と言えるほどの情熱も知識もないようだ、と自己嫌悪に陥っていきます。
 それと同時に、本当にみんなが語っている姿は素晴らしいものなのか、という疑問も抱えています。

 私の人生に最も大きな影響を与えた映画作品が、クリストファー・ノーラン監督作の『インセプション (2010)』です。しかし、私はこの作品を上手く語る言葉を持っていません。映画館でこの作品を観た私に残ったのは、ただ「すげー面白いものを観た!」という感想でした。
 複雑怪奇な作品です。当時、高校の同級生数名と一緒に劇場に見に行ったのを覚えていますが、なぜコレを見ようとなったのかは全く覚えていません。観終わったあと、「アレはどういうことだったんだろう?」というような考察談義にも花を咲かせたかもしれませんが、それも大して記憶に残っていません。

 断片的に思い出されるのは、いくつかの特徴的なシーンと最後のコマが回っている映像程度。それ以外は殆ど覚えていないのです。
 世間ではどんな言葉で紹介されているのでしょうか。ここで、超映画批評さんのレビューを引用します。

現実と非現実の境界。真実(と信ずるもの)を知ったほうが幸せなのか否か。そんなややこしい哲学的問題を描く『インセプション』は、映画の内容もかなり複雑。監督のクリストファー・ノーラン(「ダークナイト」ほか)ではなく、主演のレオナルド・ディカプリオ渡辺謙の名前に惹かれた人。あるいは予告編の大迫力スペクタクル映像を見たくて映画館に出かけた人は、この映画の前ではあまりにも無防備。

インセプション』は本来、前日には十分な休養をとり、ワンシーン、ひとつの台詞たりとも見逃さない覚悟で、3回くらいは見ないと作品の真意を理解するには至らないであろう、重厚な作品である。

(中略)

 上映時間も長く、作品の全貌を掴みきれたとは思えぬ現段階での満足度をあえていうならこのくらいの点数。凄いものを作ったものだと頭では理解できるものの、感情に響くものは少なく、改めて鑑賞したいという欲求はあまり起こらなかった。

引用元: 超映画批評『インセプション』65点(100点満点中)

 非常に難解で人を選ぶような作品であることが上手に紹介されています。流石、この分野で書籍を出版されているだけのことはありますね。でも、率直に言って、自分にとっては「言い過ぎでは?」と思ってしまうのです。

 私もこんなふうに知的に、文化的に表現してみたいと思うけれど、そんな能力もないし、やろうとするのもどこか気恥ずかしいのです。 

 だから私は、「批評」や「レビュー」という言葉を使うのは憚られます。あくまで「感想」として、鑑賞の記録を世の中に垂れ流していきたいのです。

 

 そんな、「雰囲気で映画を観ている」タイプの人間である私にとって、作品全体を包括して、知的に作品を評価する、なんてのは難しいことです。それに気づくまで、多大な時間を使いました。それと同時に、そんな私にも向いている表現の仕方があるのではないかということに気づきました。それは「好きなポイント」に絞って語ることです。

 この楽しみ方なら、知識や表現力はそれほど必要としません。なぜ良いとおもったのかの言語化もそれほど難しくないのです。それに、好きじゃなかった要素に触れて、誰かの機嫌を損ねることもあんまりないでしょう。

 

 映画好きの中で度々話題にあがる(ように感じる)作品、『レオン』を最近再鑑賞したときのこと。このときもやはり、上手く評論するような言葉は出てきません。ナタリー・ポートマン扮するマチルダが可愛く妖艶だった、とか、ジャン・レノ扮するレオンがキュートな存在だったとか、その程度で終わってしまうのです。(もちろん作品全体の感想として面白かった!というのはありますが)
 そんな、自分の感想の乏しさを嘆いているときに気づいたのです。そんなことより、心に残ったシーンだけでも取り出せばいいじゃないか、と。

 私の心に残ったシーンは、ゲイリー・オールドマン扮する刑事が、家族を殺しにやってきたシーンで、薬をキメるシーン。ここだけ、真上からのカメラワークになって、その表情がアップにされます。このカットで、こいつヤベーやつだ!と言うのが一発で伝わってくるのです。

悪徳刑事スタンが薬物をキメるシーン(映画『レオン』より)

 こうやって実際に言葉にすると、へんに難しい言葉を並べるよりも、自分にとっては価値のあるものに感じます。私の楽しみ方はこういうのでいいのではないか、と思えたのです。

 

 映画に限らず、この世の全てに対して言えることですが、楽しみ方は人それぞれ。だから、私と同じような思いをもつ方がもしいれば、自信を持って言っていきましょう。

「俺たちは雰囲気で映画を観ている」と。