ささざめブログ

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【読書】進化して帰ってきた間取りミステリー『変な家2 〜11の間取り図〜』(著:雨穴)

雨穴著『変な家2 〜11の間取り図〜』を紹介/レビュー。

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紹介と全体の感想(ネタバレなし)

『変な家』『変な絵』に続く変な〇〇シリーズ第3作。変な絵2。本作も、前作までと変わらぬ、いや、それ以上のパワーアップを見せて帰ってきている。

大前提として、雨穴さんの変な〇〇シリーズは、基本的にヒトコワの方向で決着がつくことが多いと思っている。YouTubeでやっているのはかなり不可解なタイプのホラーなのだが、書籍系はかなりまっとうなホラーミステリーという印象。キャー!と叫びたくなるホラーではなく、じわっとじめっと気持ち悪さが残るというタイプ。

謎が謎を呼び、一瞬それがすっきり解けたかのような感覚に陥らせた後、また新たな謎が与えられて、不気味な感覚がもたらされる、そのような流れが多いと感じる。そして、本作もそのような感想を抱かされた。


全11編の間取りホラー・ミステリー。そのどれもが、なんとなく嫌な、気持ちが悪いと感じさせられるエピソードとなっている。しかも、今回は、とある小屋の話であったり、あるいは間取り図すら登場しない話であったり、あるいはとある中規模な宗教施設であったりと、その話の方向性にも工夫が多分に見られた。

「変な間取り」という最初の発想から、展開次第でここまで多彩に面白く表現できるのだなという驚きが毎回ありつつ、11編というパズルのピースが後半の解決編で一気に解き明かされていく爽快さもある。(実際には、爽快でありながら、やはり後味の悪さもあり、"イヤミス"な一作にも仕上がってるのだが) 雨穴さんの作品は、前半部分で考察できる要素を多分にちりばめて、最後に一気に回収してくれるため、非常に読みやすい。だからこれだけ売れているのではないかと思う。


個人的に、これまでのシリーズ作のなかでも、完全書き下ろしであることも手伝ってか、一番面白い作品だったと感じた。
ちなみに、YouTubeで、雨穴さん自身が最初のエピソードの朗読を行っているので、内容が気になる人はまずはそちらを見てみても良いかもしれない。

youtu.be

余談だが、本書、文字数がかなり増えたからなのか、前作『変な家』と比べてページ数は爆増、文字サイズは小さい上に、ページ端の余白も小さくなっている。別に読みにくいわけではないのだが、なんかギチギチじゃね?と思って前作を開いたら全然違ったので笑ってしまった。

ちなみに、『変な家』は映画化も決定。来春の公開予定だそう。雨穴ちゃんがどんどん遠い存在に……。

各章の感想(微ネタバレあり)

以下、各エピソードを読みながら書き留めていた感想を残しておく。重大なネタバレはしないよう配慮しているが、書籍の内容に言及しているため、未読の方はご注意いただきたい。

資料① 行先のない廊下

  • 雨穴さんの小説って、こういうのだよなぁ!と思い起こされる一本目にふさわしいエピソード。母親の子に対する異常な態度。改めて振り返ると、変な家1でも変な絵でも、雨穴さんの描く恐怖の根底には「家族」というものをベースとした恐怖が垣間見える。(そもそも、家をテーマにすると、家族を扱わずにはいられないので当たり前と言えば当たり前なのだがw)
  • そんなところに収納が?という最初に抱いていた疑問が、すっきり回収されたと思ったら、さらに不気味な事実をぶつけてくる。さすが雨穴さんと感心させられた。
  • 『変な家』を7歳のガキに読み聞かせてるの、異常すぎるw

資料② 闇を育む家

  • ひたすらに「設計が悪い」家の話。ヒクラハウスというヤバそうな住宅販売会社が登場。「変な家」量産マシーン……ッてこと?
  • 住むだけで精神に異常をきたしかねない家。これこそが本当の事故物件、だよね。

資料③ 林の中の水車小屋

  • 話者も話のスタイルも変わる一作。この感じ、つい最近『近畿地方のある場所について』でも味わったな、とワクワク。
  • 前作では日本家屋の変な家が登場していたと記憶しているが、今回はさらに特殊な「水車小屋」の間取り。水車小屋の内装なんて、考えたことないよ。面白い着眼点。
  • 一見解決したように見せかけて、なにも解決していない……気持ち悪い! 最高!

資料④ ネズミ捕りの家

  • ここにきて、とうとう明確に他の話とのつながりが出てくる。こういうのはやっぱワクワクする。
  • 豪邸の間取り、住んでることが全く想像できない気持ち悪さがあってすごい。
  • 最終的に、ヒクラの娘光子ちゃんが悪く描かれるけど「こんなことになってごめんね」という彼女のセリフが気にかかった

資料⑤ そこにあった事故物件

  • またまた別の話とのつながりが。そして本格的に因習ホラー感が出てくる。部屋のサイズがおかしい、というトリックはこのシリーズでは欠かせない。
  • 地元の爺とか、最後の婆とか、登場人物全員怪しく見えてきちゃう不思議。

資料⑥ 再生の館

  • 本作の不気味さがどんどんスピード感を増していく。ヒクラの異常性が明らかになり、謎も増えていく。そして、1件目の間取りの謎もここでおぼろげながら見えてくる。

資料⑦ おじさんの家

  • ここにきて、今度は子供の日記形式のお話。よくあるやつではあるけど、とにかくきつい。読んでいるだけで気力が奪われる辛さがある。
  • 間取りを子供の視点でみえているものから推測する話になっている。その点、とにかく上手い。おじさんの家の秘密はいったいなんなのか。
  • こういう話は、「子供視点でそんなこと書くか?」という違和感を覚えてしまうケースがよくあるが、個人的にはそういう感覚はなく、自然に読むことができた。

資料⑧ 部屋をつなぐ糸電話

  • 物語の連鎖もアイデアも爆発している第8編。糸電話というアイテムをここまで気持ちの悪いグッズに変貌させてるの、天才というほかない。

死霊⑨ 殺人現場へ向かう足音

  • 資料⑧とひと続きの話。混沌さが更に増す。
  • 嘘をついて取材する筆者にプチ罰が下るシーン、とても真っ当で好き。

資料⑩ 逃げられないアパート

  • 話は繋がるのに、わからないことがまた更に増やされる。早く、早く解決編を!という思いで、ページをめくる手が早まってきた。
  • この話の間取り、かなり気持ち悪い。それに話の内容もかなり気持ち悪い。違和感ばかりが積み重なる感覚。

資料⑪ 一度だけ現れた部屋

  • なぜその日だけ現れたのかというところの納得感、最後の無力感、あの宗教の怖さ、最初の部屋との類似性。色んなところが怖くなってくる。とうとう次が解決編だろうと思うとワクワクが止まらない。

栗原の推理(解決編)

  • ここまでの11編をもとに、前回も登場した建築士の栗原さんが、繋がりを推理していく。いつも思うけど何者なんだこの人はw
  • 位置関係なども明確にされると、改めてこれは『中部地方のある場所について(間取りエディション)』みたいな作品だったなぁと感じさせられる。
  • 「こういうことだろうな」と自分で推理できていたところもあれば、「ほんとだ気づかなった!」なところも。相変わらず栗原さんは頭の回転が早い。ほれぼれしちゃうねw
     特に、⑧部屋をつなぐ糸電話なんか、最初に呼んだ時には全く気付いていなかった結末だったので、うわっと声がでそうになったほどだった。いろいろないみで。
  • 最終的には悪意が過ぎるエピソードに終着。謎は色々と解き明かされたけど、こんなの、こんなのあんまりだよ……雨穴ちゃぁん……。

残った気になる点(激ネタバレ注意)

・最後まで名前の出ない最重要人物

ヤエコの娘でありミツコの母となる女性。不幸の連鎖の中心にいるともいえる彼女は、最後までその名前がわからない。娘を毒殺しようとまでする彼女の存在は非常にミステリアスなままだ。彼女がどこまで考えて行動しているのかが読み取れないのが、悔しくかんじた。


・ミツコちゃんの悲しすぎる事実

物語のラストは、彼女の罪の告白で終える。筆者は彼女の独白に、何も言えずただ見つめるだけで終えてしまうのだが、私としてはこのままこの読書体験を終えたくないと思った。本当は彼女はやっぱりやっていないとか、そういう真実が隠されていてくれ!と願った。謎が隠れていないかと、過去の章と見比べたりもしたのだが、やはり見える事実は覆らなかった。

『資料④ ネズミ捕りの家』のシオリちゃんの発言と照らし合わせると、時系列的には、
1.シオリちゃんが寝る
2.ミツコちゃん義足を隠して鍵をかけ、眠りにつく
3.シオリちゃん夜中に起きて棚を開けようとするが開かない
4.早朝5時にミツコちゃんがシオリちゃんを起こしてトランプ
5.シオリちゃんがトイレに発つ(事故発生)
という流れを辿ることが分かる。

シオリちゃんは、2のあと、「考え直して義足を返しに行った」という記憶の改ざんを行っているのだが、この事実はシオリちゃん視点で語られた3で覆されてしまうのだ。

なんて用意周到なんだと、このときばかりは雨穴さんを恨んだ。

ただ、それでも謎は残っている。なぜ、ミツコちゃんは4でシオリちゃんを起こしたのか。
ミツコちゃんは、シオリちゃんに祖母を救う最後の望みをかけたのだろうか。それとも、子供には重大すぎる罪悪感から記憶が混濁した状態で目が覚めてしまい、幼児がえりのような状態になってしまったのだろうか。

恐らく、ミツコちゃんが義足を隠してしまったという事実は覆らないのだろう。しかし、そこまでの流れの中には、まだ明らかになっていない何かが残っているような気がしてならない。


・資料② 闇を育む家の謎

この話については、解決編でもたいして掘り下げられない。本当に、家の間取りが悪かっただけであんな悲惨な事件が起きたというのか?と、疑問がつきまとう結末だった。

まあただ少なくとも、あんな間取りの家に住んではいけないということだけは確かだ。

まとめ

以上、雨穴さん最新作の感想だ。感想メモを取りながら読書をしたため、かなり時間がかかったが、読んで良かったと思える一冊だった。

前作を読んでいても読んでいなくても楽しめる一冊になっている。2023年を締めくくる一冊に是非選んでみてはいかがだろうか。