ささざめブログ

さめざめと語ります。日記、エッセイ、短編、感想、その他。

「私がこの世でいちばん好きな場所」を考える

エッセイです。くだらないことをつらつらと書きます。


私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う。

これは、吉本ばななの『キッチン』の冒頭だ。

これを読んだ私は、はっきりこう思った。「言い過ぎだろう」と。この言葉を述べている人物はこのあと「台所で息絶えたい」とまで言うのだ。異常である、とまで思いもしたが、冷静に考えると確かに台所という場所で生きてきた人間であればそこまでの執着を覚えるのもまた必然なのかも知れないと思い直した。

『キッチン』を1ページだけ読んだ私は、そこまでで一旦本を閉じたので、なぜこの人物がそこまで台所を愛しているのかは知らないままなのだが、ここは一つ私ならどうだろうかというのを考えることにした。

この世で最も好きな場所。そこで息絶えたいとまで思える場所。

対して興味もないYouTube動画を垂れ流しながら思案する。ウユニ塩湖やヴェネツィアのような超絶美麗な景色が最初に思いついたが、日本を出たこともなく、またそういう場所に行ってみたいという強い興味も大してわかない私にとっての好きな場所ではどうやらそこではなさそうだ。

やはり、家の中だろうか。人生の半分以上は、自室で過ごしてきた自信がある。自室のパソコンの前というのが私の居場所であることは間違いがない。ただ、それを最も好きな場所と読んでしまうのはどうにも恥ずかしさがある。みっともない気がする。根暗の極みではないか。

もっと一般化して考えると、多くの人にとっての好きな場所はお風呂やお布団の中ではなかろうか。もっとも安らぎに近い場所であり、好きになるのは当然のことだろう。現代だったらサウナなんてのも選択肢にあがるのかもしれないが、最も好きな場所を聞かれてサウナと答えるような人のことはあまり好きにはなれない気がする。

ここまでで最も可能性があるのがお布団だ。なにより、響きが良い。おふとん。可愛いしふわふわだしお風呂やサウナと違って間違いなく身体を癒やしてくれる。休みの日にお布団から出れないといいながらウダウダと携帯をいじっている時間ほどの幸せがこの世にあるだろうか。

まあしかし、おふとんというのもそれはそれで安直かもしれない。

「一番好きな場所ってどこー?」
「うーん、おふとんかな(笑)」
「なにそれウケルー(笑)」

……なんてつまらない会話をするわけにはいかない。もう少し捻るべきだろう。


もう少しロマンチックに考えれば、パートナーのそばに、と言いたいところだが、これはこれで気恥ずかしいしちょっとカッコつけすぎな気がするので、そっと心にしまっておいた。

埒が明かなくなってきたので、昔のことを考えてみる。学生時代。放課後。誰が来るでもない生徒会室。副生徒会長だった私は、持たされていた合鍵で一人そこに佇んでみたり、そこでギターを弾いていたりと充実した時間を過ごしていた。知りもしない先輩たちが置いていった漫画を読んだりしたのも良い思い出だ。うん、あそこはなかなかいい場所だった。もう行くことが出来ないのが残念だが、もし誰かに聞かれたときにはそう答えるのも悪くはないかもしれない。

今でも行ける場所となると、結局は自分の家の中から選ぶことになるかもしれない。どこまで行っても出不精な私にとって、自宅以上に好きになれる場所などないのだ。

そうなってくると、最終的に候補として残ったのは、ベランダだった。

夏の日差しを浴びるのも、秋の訪れに気づくのも、冬の澄んだ空気を浴びるのも、ベランダだ。春だけは花粉という最悪の敵がいるのでマイナスではあるが、それ以外ではなかなかに活躍する。朝焼けや夕焼けを見ているときなんかもかなり癒やされる。それに、そこから見える景色は、どこか別世界のようで心穏やかでいられる。

冬の朝、熱々のコーヒーカップを手にベランダに出て、外置きの洗濯機によりかかりながら空を眺める瞬間こそが、至高の瞬間なのだ。

というわけで、「私がこの世でいちばん好きな場所」は決まった。ベランダだ。

やはりつまらない気もするが、まあ今は他に思いつくものもないのでこれくらいで勘弁してやろうと思うことにした。