2010年公開。エルム街の悪夢のリメイク版を紹介。
あらすじ
エルム街に住む高校生・ナンシーたち5人は、顔が焼けただれ、鉄の爪を持った男に襲われるという悪夢に毎晩うなされていた。夢の中の出来事が現実でも起こり、生き延びるためには眠らずにいるしかないと悟った彼らは、自分たちと殺人鬼の関係を探るが…。
紹介
エルム街の悪夢 (1984)という、圧倒的名作のリブート版。一部のシーンやプロットを継承しながら、現代風の新たなストーリーに改変させた映画となっている。
これまでのシリーズでは、コミカルさをもっていたフレディという怪人に、「コワさ」を取り戻そうという思惑があったということで、シリアスな表現も多めとなっているが……。
VFXも多用され、現代的に名シーンが蘇った点は、評価されているポイントではある。また、シリーズファンでない人からは、ある程度高評価を得ているようである。
また、新たな発明として、「マイクロスリープ」という概念が導入されている。これはこのリメイクの中でも良かったと言える点の一つだ。ベッドに寝ているときだけではなく、日中、普通に活動していると思っているときでも数秒から数十秒のわずかな睡眠状態に陥ってしまう。どうやってもフレディの悪夢からは逃れることはできないのだという絶望感を強く感じさせられる。
以下は、ネタバレを含む感想を述べる。未見の方はご注意されたし。
表現的な進化はあったか
評価できる点はゼロではないが、個人的には、本リメイクはかなり残念な出来であると言いたい。
まず物語全体として、フレディの陰湿で気持ち悪い恐怖というのの表現が不足していると思う。原作では、自分の体を切り裂いて緑の液体を噴き出しながら不気味に笑うシーンなどを見せて、ただ怖いだけではなくてまさしくGross(きもい)な怪物だったはずだが、今回のリメイクではその部分を設定に任せすぎている。
また、眠気との闘いの部分がクローズアップされすぎていて、無駄なシーンも多い。例えば、最後まで生き残る男が眠気を覚ますために薬局で薬を手に入れようと問答するシーン。その後、病院で薬を盗み出すながれの前提シーンではあるものの、映画の流れを阻害していると思った。
VFXを活用した夢のシーンは評価されているポイントではあるが、個人的には、あからさますぎて興ざめしたポイントだった。特に、序盤から出てくる原作の再現パートである、ベッドで寝ていたら天井に打ち付けられるシーンでは、なんかコレジャナイ感がありありと出ていた。
原作再現シーンはほかにも、「死体袋の女」、「風呂場で股の間から爪」など、印象的なシーンを引用しているのだが、どれもしっくりこなかった。
最後のシーンすらも、原作はハッピーな雰囲気からの急転直下が最高であるのに、こちらはまだ緊迫感が抜けきっていない状態のままエンディングを迎えるので、がっかりしてしまった。
フレディは強くなったが…
原作では、最期お家の中であっさりやられるフレディ(もちろん死んでいないのだが)。それと比べると、本作のフレディはとにかく凶悪で強敵な印象が強い。現実に引き込んだあともそれなりにバトルにはなり、2人がかりでなんとか倒せたような形だった。
ただ、設定の改変があまりにも残念すぎる。原作では「チャイルドキラー」として恐れられていたという描写だったと思うが、今作では明確に「児童性愛者」、いわゆるロリコン的な扱いにされている。
この改変によって、フレディの「キモさ」を保とうとしたのかもしれないが、これではもうあまりにもただの気持ち悪いおじさんだ。怪人として必要なキモさはそうではないはずだ。ここが私にはどうしても許せないポイントだった。
ホラーの怖さの一つには、「相手が何を考えているかわからない怖さ」というのがあると思う。フレディはそのタイプで、なぜこちらを殺しにきているのか、なぜ不気味にけらけらと笑っているのか、そういうところが読み取れない気持ち悪さというのを持ったキャラクターだと思う。それが、このリメイクでは、ただ復讐心と、あの頃のお気に入りの女の子をいたぶりたいという変態性を原動力に動いているきしょきしょおじさんとしてしまっている。
商業的には大ヒット
ここまで、個人的な酷評を述べたが、実は本作は商業的にはかなりのヒットを治めている。IMDbによれば、予算$35,000,000に対して、全世界の興行収入は$115,695,339と、3倍ほどの数字となっているのだ。
これはおそらく、13日の金曜日 (2009)が同様に大成功を収めたことにも影響しているとは思うが、世間的にはかなり受け入れられた作品だったということの証明だろう。
ただ、どんなに成功だったと言われても、やはり私には本作のフレディは受け入れがたい。