ささざめブログ

さめざめと語ります。日記、エッセイ、短編、感想、その他。

【漫画】時空を超える命と愛のサイエンス・ファンタジー『雪と墨』(Marita著/全3巻)の感想

Marita著『雪と墨』(全3巻)を紹介/レビュー。

(購入はこちらから)

紹介/感想

転生者とタイムトラベラーが織りなすサイエンス・ファンタジー

この字面だけを読むと、「なにそれ?」となるだろう。まず転生というワードで異世界転生を想像。そこにタイムトラベラーも加わったようなファンタジー作品を想像したが、この期待が良い形で裏切られることとなった。

本作は、現代社会をベースに、前世の記憶を持つ30代男性・常磐(通称トッキー)と、その同居人でタイムトラベラーである青年・浅葱(通称あっくん)の二人を中心に、不思議な世界観と時空を超えた愛を描く作品。サイエンス・フィクションではなく、サイエンス・ファンタジーなのは、作品の性質的に不思議さの部分を科学的な説明で押し通さず、ファンタジー要素として捉えているからではないかと推測する。

イケメンなメインキャラクターたちに美麗で特徴的な線からは、ボーイズ・ラブ作品の雰囲気を感じられるのだが、個人的な感想としてはこれは「精神的BL」といったところ。女性も出てきて、女性との恋愛描写もあるため、そういうTL要素が受け入れられないというような人は注意が必要だ。

ただ、そんな不可思議世界観と、BLっぽい雰囲気がありながらも、私としては男性読者視点でもう大いに大満足した一作だった。たった3巻で終わってしまうのだが、内容は非常に濃密で美しい。

複雑で不思議で奥深い世界設定

「転生者とタイムトラベラー」という、一見すると荒唐無稽な設定が目を引く本作。実際に読んでみると、そこの説得力と奥行きがとてつもない。それぞれを単なる特殊能力や未来技術としてではなく、ある種の「業」として表現しているのだ。

しかも、転生者やタイムトラベラーは複数出てくる。もうそうなってしまうと、普通の物語であれば完全に破綻してしまうだろうが、この作品はたった3巻で綺麗にまとめ上げる。

もちろん、目ざとく穴を突こうとすれば気になるところも出てくるだろうが、少なくとも単純に物語に熱中しようとすれば没頭できるような内容に仕上がっている。サイエンス・フィクションを謳わず、サイエンス・ファンタジーを名乗っているからこそ出来る芸当で、これは真似できるようなものではない。

同名作品にご注意?

実は、本作との出会いは、うの花みゆきさんが現在連載中の、同名マンガ『雪と墨』を読み、感想記事を書いたところからだ。

同作の情報を調べているときに、全く同名の作品があると気付き、そこから目をつけていたのだが、全く別のテーマの作品でどちらも素晴らしい。

ただ、両者素晴らしい作品なだけに、やはり名前被りについては気になってしまう(その御蔭で出会えたという側面もあり、なんとも難しいところだが)。ネットの感想を見ようと思っても、両者の感想がヒットしてしまうし、宣伝としてもマイナスがあったのではないだろうか。

まあしかし、「雪と墨」という言葉自体は辞書に登録されているような慣用句であるわけで、一般性があることを考えるとどちらかが独占できるという性質のものではないし、そもそもタイトルというのは作品を表す魂の部分なわけで、簡単に変えられないというのもまた事実だろう。

私から言いたいのは、どちらも素晴らしい作品なので読んでみてほしいが、購入時には間違いがないように注意、ということだ。

まとめ

転生とタイムトラベラー、ヘンテコりんな会社の登場など、不思議な世界観の中で生きる、トッキーとあっくん、そしてその周囲の人々の行く先を是非見守ってみて欲しい、そんな一作だった。

Pixivにて、本編読了後に読んで欲しい番外編(下記#28, #29, #30)が上がっているので、もし本編読まれた方がいれば、こちらも是非読んでみて欲しい。より深いユキスミワールドを堪能することができるだろう。

www.pixiv.net

個人的には、老竹クンがなんだか良い役回りでずるいし、とても良い奴なので友達になりたかった。